SaaSの決済手段を増やすと、申し込み時の離脱を減らし、顧客層や利用地域を広げられる可能性があります。一方で、決済手数料や管理業務、返金・不正利用への対応も増えるため、利用者が実際に求めている決済手段から追加することが重要です。
SaaSの決済手段を増やす主な効果
決済手段の追加による効果は、主に「申し込みやすさ」「販売対象の広がり」「継続利用のしやすさ」の3点です。
申し込み時の離脱を減らせる
顧客が使いたい決済手段に対応していないと、料金やサービス内容に納得していても、申し込みを中止することがあります。クレジットカードだけでなく、請求書払いや口座振替、銀行振込、デジタルウォレットなどに対応すると、決済画面での選択肢を増やせます。
ただし、決済手段を増やせば必ず成約率が上がるわけではありません。導入前後で、決済画面の到達数、決済完了率、決済手段別の利用数を比較して効果を確認する必要があります。
法人顧客を獲得しやすくなる
法人向けSaaSでは、担当者が個人のクレジットカードで支払えない場合があります。請求書払いや銀行振込に対応すると、社内の購買手続きや経理処理に合わせやすくなり、導入を検討できる企業が増える可能性があります。
特に、月額料金が高いサービスや複数ユーザーで利用するサービスでは、決済手段だけでなく、請求書の宛名、支払期日、適格請求書の扱い、利用明細の出力なども判断材料になります。
海外の顧客に販売しやすくなる
海外展開を目指す場合、国や地域によって利用される決済手段が異なります。現地で一般的なカードブランドやデジタルウォレット、銀行決済などに対応できれば、決済手段が理由で購入できない顧客を減らせます。
ただし、海外向けの決済では、通貨換算、税務、返金、チャージバック、不正利用、輸出や電子サービスに関するルールなども確認が必要です。国内向けの決済手段を増やす場合より、導入前の確認項目が多くなります。
特定の決済障害に依存しにくくなる
1種類の決済手段に依存していると、その決済サービスの障害やメンテナンスによって、新規申し込みや更新決済が止まることがあります。複数の手段を用意しておけば、顧客が別の方法を選べる場合があります。
ただし、決済事業者を複数利用するだけで障害の影響を完全に防げるわけではありません。決済状況を一元管理できる仕組みや、障害時の案内方法も必要です。
顧客の継続利用を支えられる
SaaSでは、初回の申し込みだけでなく、更新時に料金を回収できるかも重要です。カードの有効期限切れや利用限度額超過などで継続課金に失敗した場合、別の支払い方法へ切り替えられる仕組みがあると、意図しない解約を防ぎやすくなります。
ただし、決済手段の追加だけで解約率が下がるとは限りません。解約理由が機能不足や利用頻度の低下であれば、決済方法を増やしても解約防止にはつながりにくいと考えられます。
決済手段を増やすと発生する負担
決済手段の追加には、売上機会を広げる効果がある一方、料金と運用の負担も増えます。
決済手数料や固定費が増える
決済手段ごとに、決済手数料、月額費用、振込手数料、返金手数料などが異なる場合があります。新しい決済手段の利用数が少ないと、追加費用が売上増加分を上回ることもあります。
判断する際は、導入費用だけでなく、次の費用を決済手段ごとに確認します。
- 初期費用や月額費用
- 決済1件ごとの手数料
- 売上を受け取る際の振込手数料
- 返金や支払い取消しの手数料
- チャージバックや不正利用が発生した場合の費用
- 請求書発行や入金消込にかかる運用費
入金確認や売上管理が複雑になる
決済手段が増えると、入金日、手数料の計上方法、返金処理、売上の確認画面などが分かれることがあります。会計システムや契約管理システムと連携できない場合、手作業での確認が増え、消込漏れや二重計上につながるおそれがあります。
特に、月額課金のSaaSでは、契約者、請求期間、決済状態、未払い状態を一つの画面で確認できるかが重要です。
問い合わせや返金対応が増える
決済手段ごとに、支払い失敗の理由や返金の手順が異なることがあります。顧客から「支払ったのに利用できない」「返金がいつ反映されるか分からない」といった問い合わせを受けた場合、決済手段と契約情報を照合して対応しなければなりません。
導入前に、支払い失敗時の再請求、返金、領収書発行、支払い方法の変更をどの画面で行うか決めておく必要があります。
不正利用への対策が必要になる
決済手段が増えると、攻撃の対象となる入口も増えます。不正なカード利用、アカウントの乗っ取り、返金を悪用した詐欺などへの対策が必要です。
決済サービスが提供する本人認証や不正検知機能を確認し、利用金額やアクセス状況に応じた制限を設けます。認証を厳しくしすぎると正当な顧客の決済まで失敗する可能性があるため、利便性とのバランスも必要です。
どの決済手段を追加するかの決め方
追加する決済手段は、顧客の属性と現在の離脱理由から決めます。利用者が少ない方法を一度に多く追加するより、申し込みを妨げている決済手段を優先する方が、効果を検証しやすくなります。
| 顧客や利用状況 | 検討しやすい決済手段 | 確認する点 |
|---|---|---|
| 法人の利用が多い | 請求書払い、銀行振込 | 支払期日、請求書発行、入金消込、未払い管理 |
| 個人利用が多い | クレジットカード、デビットカード、デジタルウォレット | 対応ブランド、継続課金、支払い失敗時の再試行 |
| スマートフォンからの申し込みが多い | モバイル決済、デジタルウォレット | 操作のしやすさ、対応端末、返金方法 |
| 海外の顧客を増やしたい | 国や地域に合ったカード・ウォレット・銀行決済 | 対応通貨、税務、返金、チャージバック、提供地域 |
| カード決済の失敗が多い | 口座振替、銀行振込などの代替手段 | 失敗理由、再請求、利用停止までの猶予期間 |
表の決済手段は一般的な検討例であり、実際に利用できる方法や条件は、契約する決済サービスと対象地域によって異なります。
導入効果を判断するための確認項目
決済手段を増やす前後で、売上だけでなく、申し込みから入金までの数値を比較します。
- 決済画面まで進んだ人数
- 決済完了率
- 決済手段ごとの利用件数と売上
- 決済手段ごとの決済失敗率
- 申し込み後に発生した問い合わせ件数
- 返金やチャージバックの件数
- 決済関連の手数料を差し引いた売上
- 決済方法の追加や管理にかかった作業時間
例えば、決済手段の追加後に決済完了率が上がっても、手数料や返金対応の負担が大きければ、事業全体の利益にはつながらない可能性があります。評価する際は、売上増加だけでなく、追加費用と運用負担を含めて判断します。
導入前に行う手順
決済手段を増やすときは、顧客の要望と費用対効果を確認してから、小さく導入して結果を測定します。
- 顧客アンケートや問い合わせ履歴を確認し、現在使えない決済手段が申し込みの障害になっているか調べる。
- 対象顧客、対応地域、料金プラン、単発決済か継続課金かを整理する。
- 決済手数料、入金日、返金条件、利用可能なカードや通貨などを候補ごとに比較する。
- 契約管理、会計、請求書発行、サポートの業務に追加作業が発生するか確認する。
- 決済失敗、返金、未払い、アカウント停止の処理をテストする。
- 対象プランや一部の顧客から導入し、決済完了率や問い合わせ件数を測定する。
- 手数料を差し引いた売上と運用負担を確認し、継続または拡大を判断する。
テスト後に、決済が完了しているのにSaaSの利用権限が付与されない、返金後も利用できるといった連携上の問題がないか確認します。
決済手段を増やすのが向いているケース
次のような状況では、決済手段の追加を検討する価値があります。
- 顧客から特定の支払い方法への対応要望が繰り返し届いている
- 決済画面まで進むものの、完了率が低い
- 法人顧客が多く、個人向けカード決済だけでは社内処理に合わない
- 海外の顧客がいるが、現地で使われる決済方法に対応していない
- カードの有効期限切れなどによる継続課金の失敗が多い
- 現在の決済事業者に障害が起きた場合の代替手段がない
追加しない方がよい可能性があるケース
決済手段の利用要望や決済失敗がほとんどなく、管理コストだけが増える見込みなら、追加を急ぐ必要はありません。
また、決済完了率が低い原因が、料金の分かりにくさ、入力項目の多さ、サービス内容への不安、申し込み画面の不具合である場合もあります。この場合は、決済手段を増やす前に、料金表示や申し込み画面を改善した方が効果を確認しやすいでしょう。
まとめ
SaaSの決済手段を増やすと、決済時の離脱を減らし、法人や海外の顧客を受け入れやすくなる可能性があります。一方で、手数料、入金管理、返金、不正利用対策などの負担も増えます。
まずは顧客の要望と決済失敗の状況を確認し、追加候補の費用と運用方法を比較してください。そのうえで、決済完了率や手数料控除後の売上を測定し、実際に事業上の効果があるか判断することが大切です。







