SaaSの休眠顧客を掘り起こすには、利用しなくなった理由をデータで分類し、顧客ごとに適したきっかけと提案を届けます。全顧客に同じ案内を送るのではなく、「導入後に定着しなかった顧客」「一部機能だけ使っていた顧客」「契約は継続中だが利用が減った顧客」などに分けることが重要です。
SaaSにおける休眠顧客とは
休眠顧客とは、契約中または過去に契約していたものの、一定期間ログインや主要機能の利用がない顧客を指します。ただし、休眠の基準はサービスによって異なるため、まず自社の利用状況に合わせて定義します。
たとえば、次のような条件を組み合わせます。
- 一定期間ログインしていない
- 主要機能を一定期間利用していない
- 利用ユーザー数が大きく減っている
- 契約更新前なのに利用状況が低下している
- 問い合わせや活用相談が途絶えている
「ログインしていない」だけでは休眠と判断できない場合があります。レポートの自動配信だけを利用している顧客や、管理者以外が主に使っている顧客もいるため、重要な機能の利用状況や契約状態も確認します。
休眠顧客の掘り起こしで最初に行うこと
最初に、休眠顧客を抽出し、休眠に至った時期と利用履歴を確認します。いきなり営業メールを送るのではなく、顧客ごとの状況を把握してから施策を選びます。
- 休眠の定義を決める
- 対象顧客を抽出する
- 契約状況と利用履歴を確認する
- 休眠理由を仮説化する
- 顧客のグループごとに施策を実施する
- 反応と再利用状況を測定する
1. 休眠顧客を条件で抽出する
顧客管理システムやプロダクト分析ツールから、最終ログイン日、主要機能の利用日、利用ユーザー数、契約プラン、更新日などを確認します。
抽出条件は、たとえば次のように設定できます。
- 直近30日間、主要機能の利用がない
- 過去3か月で利用ユーザー数が半分以下になった
- 契約更新日が近いのに利用がない
- 導入後の初期設定が完了していない
30日や3か月という期間は一律の正解ではありません。毎日使うサービスと月1回使うサービスでは、休眠とみなす期間が異なります。通常の利用頻度と比較して、利用が止まったと判断できる条件を設定します。
2. 契約と利用の状態を分けて整理する
休眠顧客には、契約中の顧客と解約済みの顧客が含まれることがあります。両者では目的と案内内容が異なるため、同じリストで扱わないようにします。
| 顧客の状態 | 主な目的 | 適した対応 |
|---|---|---|
| 契約中だが利用が減った | 解約の防止と再利用 | 利用状況に応じた支援、活用提案、担当者からの連絡 |
| 導入後に定着していない | 初期設定や利用開始の支援 | 設定案内、操作説明、短時間の相談機会 |
| 一部機能だけ利用している | 利用範囲の拡大 | 関連機能の紹介、業務に合わせた活用例の提示 |
| 解約済み | 再契約の可能性を確認 | 解約理由に合わせた改善内容や再利用条件の案内 |
休眠した理由ごとにアプローチを変える
休眠の理由が異なる顧客に同じメッセージを送っても、内容が自分に関係ないと受け取られる可能性があります。利用データと過去の問い合わせ、アンケート、解約理由などを組み合わせて、原因を分類します。
使い方が分からない顧客
初期設定が未完了だったり、特定の画面で利用が止まっていたりする顧客には、機能の宣伝よりも再開手順を示します。
- 最初に行う設定を少ない手順で案内する
- 顧客の利用目的に合わせた操作例を示す
- 短時間のオンライン相談や操作説明を案内する
- つまずきやすい画面への直接リンクを設ける
「便利な機能があります」と伝えるだけでなく、「まずこの画面で設定し、次にこのデータを登録してください」のように、再開時の行動を具体化します。
導入効果を実感できていない顧客
導入前に期待していた成果と、実際の利用方法が合っていない場合は、顧客の業務上の目的に戻って提案します。
たとえば、業務の進捗管理が目的なら、機能一覧ではなく「誰が、どの情報を、どの頻度で確認するか」を整理し、その目的に合う使い方を示します。効果を断定せず、顧客が確認できる指標を一緒に設定することが大切です。
機能や操作に不満がある顧客
問い合わせ内容や利用停止した画面を確認し、不満の原因が操作性、連携、権限設定、処理速度などのどれに近いかを整理します。
改善済みの内容がある場合は、対象となる機能、変更点、利用方法を具体的に伝えます。未対応の要望を対応済みのように案内したり、改善時期を確定していないのに約束したりしないようにします。
社内事情が変わった顧客
担当者の異動、組織変更、予算の見直し、業務方針の変更などで利用が止まることもあります。この場合は、以前の担当者だけに連絡せず、現在の利用責任者や契約担当者を確認します。
再提案する際は、以前の利用方法をそのまま勧めるのではなく、現在の体制や課題に合うかを確認してから案内します。
休眠顧客を掘り起こす具体的な方法
基本的には、利用再開の負担を下げ、顧客に関係のある情報を、適切なタイミングで届けます。複数の方法を組み合わせる場合も、最初の連絡で情報を詰め込みすぎないことが重要です。
利用状況に合わせたメールを送る
休眠の事実を責めるのではなく、再開する理由と最初の行動を簡潔に伝えます。
メールには次の要素を入れます。
- 顧客の状況に関係する内容
- 再利用することで確認できること
- 最初に行う具体的な操作
- 操作方法を確認できるページや相談窓口
- 返信や再利用を促す明確な案内
たとえば、「しばらくログインがありません」だけでなく、「以前利用していたレポート機能を再開する場合は、保存済みの設定を確認してください」のように、顧客の利用履歴に沿って伝えます。
再オンボーディングを実施する
再オンボーディングとは、休眠顧客に対して、初回導入時と同じ説明を繰り返すのではなく、現在の課題に合わせて利用方法を組み直す支援です。
実施する場合は、次の順番で進めます。
- 現在の業務上の課題と利用目的を確認する
- 以前に使っていた機能と、使わなくなった理由を確認する
- 再開に必要な設定やデータを特定する
- 顧客が使う機能を絞って案内する
- 次回までに行う操作と確認指標を決める
すべての機能を説明するより、顧客が最初に達成したい業務を一つに絞るほうが、再利用のきっかけを作りやすくなります。
カスタマーサクセス担当者が個別に連絡する
契約金額が大きい顧客、更新が近い顧客、利用低下が大きい顧客には、メールだけでなく担当者が個別に連絡する方法があります。
連絡前に、次の情報を確認しておくと、状況に合った会話ができます。
- 契約プランと更新時期
- 過去に利用していた主要機能
- 利用ユーザー数の変化
- 問い合わせや要望の履歴
- 過去に案内した内容
連絡の目的は、すぐに契約を更新してもらうことだけではありません。利用が止まった理由を確認し、再利用できる条件があるかを把握することも重要です。
ウェビナーや活用事例で使い方を示す
操作方法が分からない顧客や、他社での利用イメージを持てない顧客には、短時間のウェビナーや活用事例が役立つ場合があります。
ただし、事例をそのまま顧客にも適用できると断定してはいけません。顧客の業種、運用体制、契約プラン、利用できる機能が同じかを確認し、自社の状況に置き換えて考えられるように説明します。
再利用の障壁を下げる
再利用を妨げているのが設定やデータ移行、権限変更などの作業であれば、その負担を小さくします。
- 設定を確認するチェックリストを用意する
- 再開時に必要な項目だけを案内する
- 利用者追加や権限設定の方法を説明する
- 顧客側で作業しにくい部分を支援する
値引きや無料期間だけで再利用を促すと、根本的な課題が残ることがあります。割引を提案する場合も、利用再開の条件や対象期間、契約への影響を明確にします。
休眠顧客へのメッセージを作る手順
メッセージは、顧客の状況、伝える価値、次の行動の順に組み立てると、内容が分かりやすくなります。
- 顧客が以前に使っていた機能や目的を確認する
- 現在の休眠理由を仮説として整理する
- その顧客に関係する変化や活用方法を一つ選ぶ
- 再開後に最初に行う操作を一つ示す
- メール、電話、相談会など適した連絡手段を選ぶ
- 反応がなかった場合の次の連絡時期を決める
件名や本文では、「使っていないこと」を責める表現を避けます。「再開してください」と一方的に求めるのではなく、「現在の運用に合わせて、以前の設定を見直せます」「この機能から再開できます」のように、顧客が得られる具体的な情報を示します。
掘り起こし施策の効果を測定する指標
効果を判断するには、メールの開封だけでなく、実際の再利用や契約継続まで確認します。施策の目的に応じて、複数の指標を使い分けます。
| 指標 | 確認する内容 |
|---|---|
| 連絡への反応率 | 返信、相談予約、案内ページへの遷移などがあった割合 |
| 再ログイン率 | 連絡後にログインした顧客の割合 |
| 主要機能の再利用率 | 再ログイン後に目的の機能を利用した割合 |
| 継続率 | 契約中の顧客が契約を継続した割合 |
| 再契約率 | 解約済み顧客が再び契約した割合 |
再ログインだけでは、利用が定着したとは限りません。施策前と施策後で、主要機能の利用、利用ユーザー数、継続状況などがどう変化したかを確認します。
また、連絡しなかった顧客のグループを比較対象にすると、単なる季節変動や自然な再利用と、施策による変化を分けて考えやすくなります。比較を行う場合は、顧客の契約状態や休眠期間などが大きく異ならないようにします。
掘り起こしで避けたい失敗
全顧客に同じ内容を送る
契約中の顧客と解約済みの顧客、導入直後の顧客と長期利用顧客では、必要な案内が異なります。顧客の状態を分けずに一斉配信すると、内容が合わず、連絡停止や不満につながる可能性があります。
値引きだけを提案する
利用しない理由が操作の難しさや社内体制にある場合、値引きだけでは再利用につながらないことがあります。まず利用停止の理由を確認し、必要に応じて設定支援や活用提案を行います。
利用状況を見ずに営業する
顧客が利用していた機能や、問い合わせた内容を確認せずに連絡すると、顧客は自社の状況を理解していないと感じる可能性があります。連絡前に最低限の利用履歴と契約情報を確認します。
連絡を何度も送り続ける
反応がない顧客に同じ案内を繰り返すのではなく、連絡回数や期間、配信停止の扱いをあらかじめ決めます。メール配信や営業連絡を行う際は、適用される法令、契約、社内ルールを確認し、配信停止などの手続きを適切に用意します。
自社で始める場合の判断基準
まずは、休眠顧客を「契約中で更新が近い」「導入後に定着していない」「過去に特定機能を使っていた」など、対応しやすいグループに分けます。そのうえで、顧客数や契約金額、休眠理由の確かさに応じて、メール、オンライン相談、担当者の個別連絡を選びます。
- 顧客数が多く、状況が似ている場合は、条件別のメール配信
- 導入設定で止まっている場合は、再オンボーディング
- 契約金額が大きく、更新が近い場合は、担当者による個別対応
- 機能への不満が疑われる場合は、改善内容の説明と要望確認
- 解約済みで理由が明確な場合は、改善後の再提案
最初からすべての休眠顧客を対象にする必要はありません。休眠理由を確認しやすく、再利用後の変化を測定できるグループから小さく試すと、次の施策を改善しやすくなります。
SaaSの休眠顧客を掘り起こす第一歩は、休眠の条件を決め、契約状況・利用履歴・休眠理由を整理することです。そのうえで、顧客ごとに再利用の障壁を下げる案内を送り、ログインではなく主要機能の再利用や契約継続まで確認します。







