SaaSの売上予測はどのような方法で行う?

SaaSの売上予測はどのような方法で行う?

SaaSの売上予測は、既存顧客の継続売上と解約を見積もり、新規商談の成約確率や契約開始時期を加えて計算する方法が基本です。実務では、ボトムアップ予測、パイプライン予測、コホート分析を組み合わせ、保守・標準・強気の複数シナリオで確認します。

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SaaSの売上予測でまず分けるべき3つの数値

SaaSでは「契約した金額」「毎月発生する売上」「会計上の売上」が同じとは限りません。予測を始める前に、何を予測するのかを決める必要があります。

数値 意味 予測での使い方
契約金額・受注額 契約によって決まった総額 営業の受注見込みや年度契約の管理に使う
MRR 毎月発生する継続売上 月次の成長、解約、アップセルを確認する
ARR MRRを年換算した継続売上 事業規模や年間の継続売上を確認する
会計上の売上 契約期間に応じて計上される売上 損益計算書の売上予測に使う

たとえば、1年分の料金を契約時に受け取っても、会計上の売上を契約期間にわたって月ごとに計上する場合があります。そのため、キャッシュの入金予測と売上予測は分けて管理します。

SaaSの売上予測で使われる主な方法

1. ボトムアップ法

ボトムアップ法は、顧客数、単価、契約開始月、継続率などを積み上げて予測する方法です。顧客や商談の状況を反映しやすく、月次の予測に向いています。

基本的な計算は、次のように整理できます。

売上予測 = 既存顧客の継続売上 + 新規契約の売上 + アップセル売上 − 解約・ダウングレード分

新規契約については、顧客ごとに次の項目を設定します。

  • 契約予定日
  • 利用開始日
  • 料金プラン
  • 月額または年額の契約金額
  • 成約確度
  • 契約期間
  • 導入の遅れや失注の可能性

契約予定日ではなく、実際にサービスの提供が始まる日を使うことが重要です。受注日と利用開始日が異なる場合、売上が発生する月も変わるためです。

2. パイプラインの加重平均法

パイプラインの加重平均法は、進行中の商談金額に成約確率を掛けて、新規売上を見積もる方法です。

加重予測額 = 商談金額 × 成約確率

たとえば、商談金額が100万円で、成約確率を30%と設定する場合、加重予測額は30万円です。ただし、この30%が実績に基づく確率なのか、営業担当者の感覚なのかによって、予測の信頼性は変わります。

商談ステージごとの確率を設定する場合は、過去の商談データから、各ステージの成約率を計算します。ステージ名だけで一律の確率を置くよりも、自社の営業サイクルや顧客層に合いやすくなります。

なお、加重平均法は受注金額の予測には使いやすい一方、契約開始時期や売上計上期間を別に考える必要があります。商談の成約確率を掛けただけで、そのまま月次売上になるとは限りません。

3. コホート分析による予測

コホート分析は、契約開始月や獲得経路などが同じ顧客群をまとめ、時間の経過による継続率や売上の変化を見る方法です。

たとえば、同じ月に契約した顧客を1つのグループとして、次の項目を月ごとに確認します。

  • 何社が継続しているか
  • どれだけ解約しているか
  • アップセルやダウングレードがどの程度あるか
  • 顧客1社あたりの売上がどう変化しているか

過去のコホートで確認した継続率や売上の推移を、新しい顧客群の予測に利用します。顧客数が増えたSaaSでは、全顧客を一括で見るよりも、導入時期やプラン別の傾向を把握しやすくなります。

ただし、過去と現在で料金、顧客層、提供機能、契約条件が変わっている場合は、過去の継続率をそのまま当てはめないようにします。

4. MRRの増減を積み上げる方法

月次の継続売上を予測するときは、前月のMRRに増減要因を加える方法が使えます。

当月MRR = 前月MRR + 新規MRR + アップセル − ダウングレード − 解約MRR

この方法では、売上の増減理由を確認しやすい点が特徴です。新規顧客の増加だけでなく、既存顧客の解約やプラン変更が予測に反映されます。

年額契約をMRRとして管理する場合は、契約金額を契約月数で割るなど、社内で統一した定義を決めます。定義が部署ごとに異なると、営業の受注額と経営管理上のMRRを比較できなくなります。

5. トップダウン法

トップダウン法は、市場規模、目標シェア、成長率などから、全体の売上目標を見積もる方法です。中長期の事業計画や投資判断には使えますが、翌月や翌四半期の売上予測には単独で使いにくい方法です。

たとえば、市場規模に一定のシェアを掛けて売上目標を置いても、営業人員、商談数、成約率、導入期間が不足していれば、短期的には達成できない可能性があります。そのため、トップダウン法はボトムアップ法と比較し、前提に無理がないかを確認するために使います。

実務で使いやすいSaaS売上予測の手順

月次または四半期の予測を作る場合は、次の順番で進めると、売上の根拠を確認しやすくなります。

  1. 予測対象を決める。会計上の売上、MRR、ARR、受注額、入金額のどれを予測するのかを明確にします。
  2. 予測期間を決める。月次、四半期、年度などの期間を設定し、契約開始日や売上計上のルールをそろえます。
  3. 既存顧客の売上を積み上げる。現在の契約金額から、継続、解約、ダウングレード、アップセルを見積もります。
  4. 商談をステージ別に整理する。商談金額、成約確率、契約開始予定日、導入期間を記録します。
  5. 成約確率を反映する。過去の成約率や商談の進み具合をもとに、パイプラインの加重予測額を計算します。
  6. 契約開始時期を調整する。受注予定月とサービス提供開始月が違う場合は、売上が発生する月を分けて入力します。
  7. シナリオを作る。成約率、解約率、契約開始の遅れなどを変え、保守・標準・強気の予測を作ります。
  8. 実績との差を確認する。予測と実績がずれた理由を、商談の失注、契約開始の延期、解約、単価の変化などに分解します。
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予測の精度を高めるために確認する指標

SaaSの売上予測では、売上金額だけでなく、売上を生み出す要因も確認します。特に次の指標は、予測の前提を点検するのに役立ちます。

指標 確認する内容
新規契約数 予測期間に何社を獲得できるか
平均契約単価 顧客1社あたりの契約金額が変化していないか
商談数 目標売上に必要な商談量があるか
成約率 商談がどの程度契約に至っているか
営業サイクル 商談開始から契約までに何日かかるか
解約率 既存顧客の売上がどの程度減るか
NRR 既存顧客の売上が拡大しているか、縮小しているか
導入期間 契約後、いつからサービス提供と売上計上が始まるか

NRRは、既存顧客の売上が、アップセルやダウングレード、解約を反映した後にどの程度残っているかを見る指標です。新規契約を除いて既存顧客の動きを確認できるため、継続売上の予測に使えます。

保守・標準・強気の3シナリオで予測する

1つの数字だけで予測すると、商談の延期や解約が起きたときに計画との差が大きくなります。条件を変えた複数シナリオを作ると、売上の幅と必要な対策を把握できます。

シナリオ 置く条件の例 使い方
保守 成約率を低めにし、契約開始の遅れや解約を多めに見込む 最低限の資金計画や人員計画を考える
標準 過去の実績に近い成約率、継続率、営業期間を使う 通常の事業計画として管理する
強気 商談の成約やアップセルが順調に進む条件を置く 成長投資の余地を検討する

強気シナリオを目標値として扱う場合は、予測値と目標値を区別します。目標を実績のように扱うと、採用、広告、開発などの判断を誤る可能性があります。

SaaSの売上予測で起こりやすい失敗

商談金額をそのまま売上にする

商談が存在していても、すべてが契約になるとは限りません。成約確率、契約開始時期、導入期間を反映しない商談金額は、売上予測ではなく営業目標に近い数値になります。

解約やダウングレードを見込まない

新規契約だけを積み上げると、既存顧客の減少を反映できません。契約更新月、過去の解約率、利用状況などをもとに、継続売上の減少も予測します。

受注月と売上計上月を混同する

契約締結、入金、サービス開始、売上計上は、それぞれ時期が異なることがあります。経営管理用の予測と会計上の売上予測で、同じ日付を使っていないか確認が必要です。

過去の成長率だけで未来を計算する

過去に高い成長率だったとしても、営業人員、対象市場、価格、解約率が変われば、同じ成長率を維持できるとは限りません。成長率だけでなく、商談数、成約率、単価、継続率に分解して確認します。

予測を更新しない

売上予測は一度作って終わりではありません。商談の進展、失注、契約延期、解約、料金変更などが発生したら、予測を更新します。

自社に合う方法の選び方

顧客数が少なく、商談ごとの状況を把握できる段階では、顧客別のボトムアップ法とパイプラインの加重平均法が向いています。顧客数が増えた場合は、プラン別・契約月別のコホート分析とMRRの増減管理を加えると、継続売上を予測しやすくなります。

  • 短期の営業見込みを知りたい場合:パイプラインの加重平均法
  • 月次売上を顧客単位で予測したい場合:ボトムアップ法
  • 解約や継続売上を予測したい場合:コホート分析とMRRの積み上げ
  • 中長期の事業計画を作りたい場合:トップダウン法とボトムアップ法の比較

最初に行うことは、予測対象を「受注額」「MRR」「会計上の売上」から選び、既存顧客、新規商談、解約・減額を分けて一覧化することです。そのうえで、過去の成約率や継続率を使って予測を計算し、実績との差を定期的に更新します。

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