SaaSのネットリテンションはどう計算する?

SaaSのネットリテンションはどう計算する?

SaaSのネットリテンション(NRR)は、既存顧客の売上が一定期間後にどれだけ残ったかを示す指標です。基本的には、期首の既存顧客のMRRに、アップセルなどの増額を加え、ダウングレードや解約による減額を差し引いて計算します。新規顧客の売上は含めません。

SaaSのネットリテンションの計算式

ネットリテンションは、次の式で計算します。

NRR(%)=(期首MRR+増額MRR-減額MRR-解約MRR)÷期首MRR×100

MRRは「Monthly Recurring Revenue」の略で、月次の継続収益を指します。年次契約を対象に計算する場合は、MRRをARR(年間経常収益)に置き換えても構いません。ただし、分子と分母で同じ単位・同じ期間の数値を使う必要があります。

計算に使う項目

項目 意味
期首MRR 計測期間の開始時点で、既存顧客が生み出していたMRR
増額MRR アップセルや追加契約などによる既存顧客の増額分
減額MRR ダウングレードや契約プラン変更による既存顧客の減額分
解約MRR 既存顧客の解約によって失われたMRR

増額・減額・解約は、計測期間中に既存顧客へ発生した変化だけを集計します。計測期間中に新しく契約した顧客のMRRは、NRRの計算に含めません。

具体例で見るネットリテンションの計算

たとえば、1月1日時点の既存顧客のMRRが100万円だったとします。その後、次の変化が発生しました。

  • アップセルによる増額:20万円
  • ダウングレードによる減額:5万円
  • 解約による減額:10万円

この場合、計算式は次のとおりです。

(100万円+20万円-5万円-10万円)÷100万円×100=105%

このSaaSのNRRは105%です。期首の既存顧客だけを対象にすると、減額や解約の影響を受けた後でも、アップセルによって売上が5%増えたと解釈できます。

ネットリテンションの数値はどう判断するか

NRRが100%を超えていれば、既存顧客から得られる売上が、減額や解約を差し引いても増えています。反対に、100%未満なら、既存顧客から得られる売上が減少しています。

NRR 読み取れること
100%超 アップセルなどによる増額が、減額・解約を上回っている
100% 増額と減額・解約が差し引きで同じ
100%未満 減額・解約が増額を上回っている

ただし、NRRだけで事業の良し悪しを決めることはできません。顧客単価、顧客数、契約期間、計測期間、顧客規模などをそろえて比較する必要があります。また、会社全体の売上が増えていても、既存顧客のNRRが100%未満という場合はあります。新規顧客の売上と既存顧客の維持・拡大は、分けて確認することが大切です。

ネットリテンションの計算で新規顧客を含めない理由

NRRは、既存顧客との契約が維持・拡大されているかを測る指標だからです。新規顧客のMRRを加えると、既存顧客の解約や減額があっても数値が高く見える可能性があります。

たとえば、期首MRRが100万円で、既存顧客から20万円が解約された一方、新規顧客から50万円のMRRを獲得したとします。新規顧客を含めると売上は増えていますが、既存顧客だけを見ると、NRRは80%です。

新規顧客を含めた売上の増減を確認したい場合は、NRRではなく、全体のMRR成長率など別の指標で計算します。

NRRとGRRの違い

NRRと似た指標にGRR(グロス・レベニュー・リテンション)があります。NRRはアップセルなどの増額を含めますが、GRRは増額を含めず、減額と解約だけを反映します。

GRRの基本的な式は次のとおりです。

GRR(%)=(期首MRR-減額MRR-解約MRR)÷期首MRR×100

同じ例で、期首MRRが100万円、減額が5万円、解約が10万円の場合、GRRは次のようになります。

(100万円-5万円-10万円)÷100万円×100=85%

NRRは「既存顧客への追加販売によって売上を拡大できているか」を見るのに向いています。一方、GRRは「アップセルを考慮せず、既存顧客の売上をどれだけ維持できているか」を確認するために使います。

計算するときにそろえる条件

正しく比較するには、対象顧客、期間、売上の定義をそろえてください。特に次の点がずれると、NRRを正しく比べにくくなります。

  • 期首時点の既存顧客だけを対象にする
  • 新規顧客のMRRを含めない
  • MRRまたはARRのどちらかに単位を統一する
  • アップセル、ダウングレード、解約の集計期間を統一する
  • 一時的な初期費用や従量課金を含めるか、社内で定義を決める
  • 無料期間、休止、返金、契約変更をどう扱うかを事前に決める

従量課金や一時的な追加料金がある場合は、継続収益として扱う範囲を明確にします。MRRに含める項目が月によって変わると、NRRの変化が顧客の契約状況によるものか、集計方法によるものか分かりにくくなるためです。

ネットリテンションを計算する手順

  1. 計測期間を決めます。たとえば、月次であれば1月1日から1月31日まで、年次であれば年度の開始から終了までを対象にします。
  2. 期間の開始時点で契約していた既存顧客を一覧にします。
  3. その顧客の期首MRRを合計します。
  4. 期間中に発生したアップセルや追加契約による増額を合計します。
  5. ダウングレードによる減額と、解約による減額をそれぞれ合計します。
  6. 計算式に当てはめ、NRRを算出します。
  7. 新規顧客のMRRが計算に入っていないことを確認します。

顧客別に「期首MRR」「増額」「減額」「解約後MRR」を並べてから合計すると、どの顧客の変化がNRRに影響したか確認しやすくなります。

まとめ

SaaSのネットリテンションは、(期首MRR+既存顧客の増額-既存顧客の減額-既存顧客の解約)÷期首MRR×100で計算します。

NRRでは新規顧客を含めず、既存顧客の売上が維持・拡大したかを確認します。100%を超えていれば既存顧客からの売上が増え、100%未満なら減少しているため、GRRや解約率などもあわせて原因を確認すると判断しやすくなります。