SaaSの収益予測モデルとは?

SaaSの収益予測モデルとは?

SaaSの収益予測モデルとは、契約数、顧客単価、解約率、アップセルなどの変数を使って、将来の売上やMRR(毎月の継続収益)を見積もる仕組みです。単純に「今月の売上×12」で計算するのではなく、新規契約、継続、解約、契約額の増減を分けて予測するのが基本です。

SaaSの収益予測モデルで予測するもの

主に予測するのは、MRR、ARR、売上高、顧客数、契約単価、解約率です。それぞれ目的が異なるため、どの数値を予測したいのかを先に決めます。

指標 意味 主な用途
MRR 月次の継続収益 毎月の成長や減少を確認する
ARR 年間の継続収益。一般にMRR×12で計算 事業規模や成長目標を確認する
売上高 会計上の期間売上 損益計算書や業績予測に使う
顧客数 契約中の顧客の数 契約の増減や営業計画を確認する
解約率 一定期間に契約を解約した割合 継続率や将来収益を予測する

MRRやARRは経営管理に便利な指標ですが、会計上の売上高と同じとは限りません。たとえば、年間契約を一括で受け取っても、会計上の売上はサービス提供期間に分けて計上される場合があります。そのため、収益予測では経営指標としてのMRR・ARRと、会計上の売上を区別します。

基本となるSaaS収益予測モデルの計算式

SaaSのMRRは、現在のMRRに新規契約や契約拡大を加え、解約や契約縮小を差し引いて予測します。

期末MRR = 期首MRR + 新規MRR + 拡張MRR − 縮小MRR − 解約MRR

各項目の意味は次のとおりです。

  • 期首MRR:予測期間の開始時点で継続しているMRR
  • 新規MRR:新しく契約した顧客によるMRR
  • 拡張MRR:アップセルや追加利用によって増えたMRR
  • 縮小MRR:プラン変更や利用量減少によって減ったMRR
  • 解約MRR:顧客の解約によって失われたMRR

この式を月ごとに繰り返すと、将来のMRRを予測できます。ARRを単純に確認する場合は、次の式を使います。

ARR = MRR × 12

ただし、月契約と年契約が混在している場合や、従量課金の変動が大きい場合は、MRRやARRの定義を社内で統一しておく必要があります。

収益予測モデルに入れる主な変数

1. 新規顧客数

新規顧客数は、営業活動から新たに契約へ進む顧客数です。営業担当者数、商談数、受注率、営業サイクルなどを使って予測します。

たとえば、商談数から予測する場合は、次のように計算します。

新規契約数 = 商談数 × 受注率

受注率は、すべての商談に同じ割合を当てはめるよりも、顧客規模、業種、流入経路、営業担当者などに分けたほうが実態に近づきやすくなります。

2. 新規顧客の平均単価

新規顧客数に平均月額単価を掛けると、新規MRRを計算できます。

新規MRR = 新規契約数 × 平均月額単価

複数の料金プランがある場合は、プラン別に契約数と単価を分けます。無料プランから有料プランへ移行するサービスでは、無料登録数と有料化率も別の変数として扱います。

3. 解約率

解約率は、既存顧客や既存MRRがどの程度失われるかを予測するために使います。顧客数を基準にしたロゴチャーンと、MRRを基準にした売上チャーンは分けて管理します。

解約顧客数 = 期首顧客数 × 顧客解約率

解約MRR = 期首MRR × MRR解約率

顧客数が減っていなくても、低単価の顧客が解約し、高単価の顧客が残っていることがあります。そのため、顧客数だけでなくMRRベースの解約率も確認することが重要です。

4. アップセルとダウングレード

既存顧客が上位プランへ移行したり、ユーザー数や利用量を増やしたりすると、拡張MRRが発生します。一方、下位プランへの変更や利用量の減少は縮小MRRになります。

アップセルが重要なサービスでは、新規契約だけでなく、顧客ごとの利用期間や利用状況から拡張の可能性を予測します。契約単価が利用量に連動する従量課金型では、利用量の予測が収益予測の中心になります。

簡単な計算例

以下は説明のための仮定例です。実際のSaaS企業の業績や料金を示すものではありません。

  • 期首MRR:1,000万円
  • 新規MRR:200万円
  • 拡張MRR:50万円
  • 縮小MRR:20万円
  • 解約MRR:80万円

この場合、期末MRRは次のように計算します。

1,000万円 + 200万円 + 50万円 − 20万円 − 80万円 = 1,150万円

したがって、この仮定では期末MRRは1,150万円です。単純計算のARRは次のとおりです。

1,150万円 × 12か月 = 1億3,800万円

ただし、このARRは期末時点のMRRを年間換算した数値です。1年間に実際に計上される売上高とは異なる可能性があります。

予測の精度を高めるコホート分析

顧客を契約月や契約四半期ごとのグループに分けて、継続率や売上の変化を見る方法をコホート分析といいます。

たとえば、1月に契約した顧客群、2月に契約した顧客群を分け、それぞれについて次の項目を追跡します。

  • 契約後の継続率
  • 月ごとの解約率
  • 平均単価の変化
  • アップセルの発生率
  • 顧客獲得経路ごとの収益性

全顧客に一つの解約率を適用する方法は簡単ですが、契約期間や顧客属性による違いを反映しにくいという弱点があります。過去データが蓄積している場合は、コホート別に予測すると、どの顧客群が継続しやすいかを反映できます。

ボトムアップ型とトップダウン型の違い

SaaSの収益予測には、営業活動や顧客単位から積み上げるボトムアップ型と、市場規模や成長率から全体を見積もるトップダウン型があります。

方法 計算の起点 向いている用途 注意点
ボトムアップ型 顧客数、商談数、受注率、単価など 月次の営業計画や売上予測 入力する前提が多く、営業データの質に左右される
トップダウン型 市場規模、目標シェア、成長率など 事業計画や投資判断の概算 実際の営業能力や解約を反映しにくい

実務では、片方だけに頼るのではなく、ボトムアップ型で作った予測をトップダウン型の市場見通しと照らし合わせます。両者の差が大きい場合は、顧客獲得数、単価、解約率などの前提を見直します。

SaaSの収益予測モデルを作る手順

  1. 予測する期間を決める:月次、四半期、年次のどの単位で予測するかを決めます。営業計画には月次、経営計画には四半期や年次が使われることがあります。
  2. 現在の顧客とMRRを整理する:契約中の顧客数、プラン、契約単価、契約開始日、現在のMRRを確認します。
  3. 新規契約を予測する:商談数、受注率、営業担当者数、販売経路などを使って新規顧客数を見積もります。
  4. 継続と解約を予測する:過去の顧客解約率やMRR解約率を、顧客属性や契約期間に応じて設定します。
  5. 拡張と縮小を加える:アップセル、追加利用、ダウングレードなどによるMRRの増減を反映します。
  6. MRRとARRを計算する:月ごとの期末MRRを計算し、必要に応じてARRへ換算します。
  7. 会計上の売上やキャッシュと分けて確認する:請求時期、入金時期、売上計上時期が異なる場合は、売上予測とキャッシュフロー予測を別に作ります。
  8. 実績と比較して前提を更新する:予測期間が終わるたびに、実際の新規契約数、解約率、単価と比較し、次の予測に反映します。

収益予測で注意したいポイント

契約額と売上高を混同しない

年間契約の契約金額、請求額、入金額、会計上の売上高は、同じタイミングで発生するとは限りません。経営指標を予測するモデルと、会計上の売上を予測するモデルを分けると、数字の意味を確認しやすくなります。

解約率を一つの数字だけで固定しない

解約率は、顧客規模、料金プラン、契約期間、業種、導入経路によって変わることがあります。全顧客に一律の解約率を使う場合は、実績とのずれが大きくなっていないか定期的に確認します。

予測を一つに決めすぎない

予測には不確実性があるため、基本ケースだけでなく、強気ケースと弱気ケースも作ると判断しやすくなります。ケースごとに、新規契約数、受注率、単価、解約率などの前提を変えます。

  • 基本ケース:過去実績に近い前提
  • 強気ケース:受注率や拡張率が高く、解約率が低い前提
  • 弱気ケース:受注率が低く、解約率が高い前提

ケース分けは将来を正確に言い当てるためではなく、前提が変わったときにどの程度収益へ影響するかを把握するために使います。

まとめ

SaaSの収益予測モデルは、期首MRRに新規契約と拡張を加え、縮小と解約を差し引いて将来のMRRを計算する仕組みです。

まずは現在の顧客数とMRRを整理し、新規契約数、平均単価、解約率、アップセルを月単位で設定します。そのうえで、MRR・ARR、会計上の売上、キャッシュの違いを分け、実績と比較しながら前提を更新すると、事業計画に使いやすいモデルになります。