SaaSのNPS活用方法とは、顧客の推奨意向を数値化し、解約防止やオンボーディング改善、機能開発、顧客対応に生かすことです。NPSだけで顧客の不満や解約理由が分かるわけではないため、自由回答や利用状況、継続率などと組み合わせて判断します。
SaaSにおけるNPSとは
NPS(Net Promoter Score)は、「このサービスを、友人や同僚に薦める可能性はどのくらいありますか」という質問に、0〜10点で答えてもらい、顧客の推奨意向を測る指標です。
回答は、次の3グループに分けます。
| 点数 | 分類 | 意味 |
|---|---|---|
| 9〜10点 | 推奨者 | サービスを高く評価し、他者に薦める可能性が高い顧客 |
| 7〜8点 | 中立者 | 大きな不満はないものの、強い推奨まではしていない顧客 |
| 0〜6点 | 批判者 | 不満や不安を抱えている可能性がある顧客 |
NPSは、次の計算式で求めます。
NPS = 推奨者の割合(%)− 批判者の割合(%)
たとえば、回答者のうち推奨者が50%、批判者が20%なら、NPSは「50−20=30」です。中立者は計算に直接使いませんが、回答者全体の構成や評価の変化を確認するうえで重要です。
SaaSでNPSを活用する主な方法
1. オンボーディングの改善に使う
導入直後のNPSが低い場合、初期設定や操作方法、社内展開の進め方に問題がある可能性があります。NPSの点数だけで原因を決めつけず、自由回答や問い合わせ内容と照らし合わせて改善箇所を特定します。
たとえば、次のような回答が多い場合は、導入支援の見直しが考えられます。
- 初期設定の手順が分かりにくい
- 管理者以外の利用者を招待しにくい
- 導入後に何をすればよいか分からない
- 既存の業務やツールとの連携方法が分からない
改善策として、初回設定の案内、導入チェックリスト、操作動画、利用開始後のフォロー連絡などを整えます。改善後は、NPSだけでなく初回利用率や主要機能の利用率も確認します。
2. 解約リスクの発見に使う
低いNPSの顧客は、必ず解約するとは限りません。ただし、利用頻度の低下や問い合わせの増加など、ほかの情報と重なっている場合は、解約リスクを確認するきっかけになります。
次のように、NPSと利用データを組み合わせて見ます。
| 状態 | 考えられる対応 |
|---|---|
| NPSが低く、利用頻度も下がっている | 不満の内容を確認し、利用再開を支援する |
| NPSは高いが、主要機能を使っていない | 現在の評価理由と、未利用機能の必要性を確認する |
| NPSは中程度で、問い合わせが多い | サポートや操作性に関する課題を調べる |
| NPSが高く、利用も定着している | 導入事例や紹介の依頼を検討する |
この表は判断の出発点であり、NPSの点数だけから顧客の意図を断定するものではありません。担当者が顧客に確認し、課題や利用目的を把握することが必要です。
3. 顧客サポートの改善に使う
サポートを利用した直後にNPSを尋ねると、対応内容や解決状況に対する評価を確認できます。ただし、この場合はサービス全体の評価ではなく、特定の問い合わせ対応に対する評価に近くなります。
そのため、サービス全体を測る調査と、問い合わせ後の対応を測る調査は分けて管理します。問い合わせ後の評価をサービス全体のNPSと混ぜると、どの体験を評価した数値なのか分かりにくくなります。
自由回答では、次の項目を分類すると改善につなげやすくなります。
- 回答までの速さ
- 担当者の説明の分かりやすさ
- 問題が解決したか
- 製品の使いにくさ
- 機能や料金への意見
4. 機能開発の優先順位を決める
NPSの自由回答に同じ要望が繰り返し出ている場合、機能開発の検討材料になります。ただし、要望の件数だけで開発を決めるのではなく、対象顧客の数、利用目的、開発コスト、既存機能との関係も確認します。
たとえば、批判者から多く出る要望は不満の解消に関係する可能性があります。一方、推奨者が評価している機能は、サービスの強みとして維持・強化する候補になります。両者を分けて分析すると、弱点の改善と強みの維持を同時に考えられます。
5. 顧客の紹介や事例化につなげる
高いNPSを示した顧客は、導入事例や紹介の候補になり得ます。ただし、高評価だからといって、紹介や掲載に同意しているとは限りません。
まずは評価への感謝を伝え、導入効果や活用方法について話を聞けるか確認します。そのうえで、事例掲載や紹介を依頼する場合は、掲載範囲、社名の公開、内容の確認方法などを別途説明します。
SaaSでNPSを調査する手順
NPSを活用するには、数値を集めるだけでなく、調査の目的と改善方法を先に決めておくことが重要です。
- 調査目的を決める。サービス全体の評価を測るのか、導入直後の体験を調べるのか、サポート対応を評価するのかを区別します。
- 対象顧客と調査時期を決める。契約直後、初期設定完了後、一定期間の利用後など、評価したい体験に合う時期を設定します。
- 0〜10点の推奨意向を尋ねる。回答方式や質問文を毎回大きく変えず、前回との比較ができるようにします。
- 理由を自由回答で尋ねる。点数だけでは原因を特定できないため、「その点数を付けた理由」を確認します。
- 顧客属性や利用状況と結び付ける。契約プラン、利用期間、業種、利用機能、サポート利用の有無など、分析に必要な項目を整理します。
- 回答を分類し、改善施策を決める。自由回答をテーマ別に分け、影響の大きさと対応可能性を考えて優先順位を付けます。
- 改善後の変化を確認する。NPSだけでなく、利用率、継続率、問い合わせ件数、解約率など、施策に関係する指標も確認します。
NPSを活用するときの注意点
NPSだけで顧客満足度を判断しない
NPSは推奨意向を表す指標であり、満足度、使いやすさ、価格への納得感、導入効果をすべて表すものではありません。高い点数でも利用頻度が低い顧客はいますし、低い点数でも特定の機能を継続的に使う顧客はいます。
そのため、NPSは継続率、解約率、利用率、問い合わせ内容、契約金額などと組み合わせて確認します。
調査の対象や時期をそろえる
導入直後の顧客と、長期間利用している顧客では、評価の基準が異なる可能性があります。また、特定のプランや業種の顧客だけを対象にすると、全顧客の評価とは異なる結果になることがあります。
前回と比較する場合は、対象顧客、調査時期、質問内容、回答方法が大きく変わっていないか確認してください。
回答数と回答者の偏りを確認する
回答率が低い場合、強い不満を持つ顧客や、特に満足している顧客だけが回答している可能性があります。回答数が少ないときは、NPSの変化を大きく解釈せず、回答者の構成や自由回答も確認します。
点数で顧客や担当者を単純評価しない
NPSを営業担当者やサポート担当者の評価に直結させると、回答依頼の方法や対象顧客を操作する誘因が生まれる場合があります。個人の査定に使うより、顧客体験を改善するための材料として扱うほうが、調査の目的に合いやすくなります。
SaaSのNPS活用で最初に行うこと
最初に、NPSを何の改善に使うのかを一つに絞ります。たとえば「導入後30日以内のつまずきを減らす」と決めた場合、導入後の顧客を対象にNPSと自由回答を集め、初期設定や利用開始に関する意見を分類します。
その後、利用率や問い合わせ内容と照らし合わせ、改善策を実施します。NPSの数値を上げること自体ではなく、顧客の評価理由を把握し、サービス改善につなげることが、SaaSにおけるNPS活用の基本です。







