SaaSの月額収益を増加させるには、新規契約を増やす、解約を減らす、1社あたりの契約額を高めるという3つの方向から改善します。特に、集客だけに頼らず、既存顧客の継続率や上位プランへの移行も同時に見直すことが重要です。
まずは月額収益を「顧客数」「平均月額単価」「解約率」「上位プランや追加機能の利用状況」に分けて確認すると、自社が優先して改善すべき場所を判断しやすくなります。
SaaSの月額収益を増加させる基本の考え方
SaaSの月額収益は、継続的に発生する契約売上を指すことが多く、一般にはMRR(Monthly Recurring Revenue)として管理されます。基本的には、次のように考えられます。
月額収益 = 顧客数 × 1社あたりの平均月額料金
ただし、実際の増減を見るときは、新規契約だけでなく、解約、下位プランへの変更、上位プランへの変更、追加契約も含めて確認します。
月額収益の増減 = 新規契約による収益 + 上位変更・追加契約による収益 − 解約・下位変更による減少
このため、顧客数を増やす施策だけでなく、解約を防ぎ、既存顧客がより大きなプランを利用する仕組みを整えることが、安定した増収につながります。
月額収益を増やす7つの方法
1. 新規顧客を増やす
新規顧客を増やすには、SaaSが解決できる課題と対象顧客を明確にします。誰にでも使えるサービスとして訴求するよりも、「どの業種の、どの担当者が、どの問題を解決できるのか」を具体化したほうが、広告や営業の内容を作りやすくなります。
たとえば、単に「業務を効率化するツール」と説明するのではなく、「複数店舗の勤怠確認を一元化するサービス」のように、対象と用途を示します。
- 対象業種や企業規模を絞る
- 導入前の課題と導入後の状態を具体的に示す
- 導入事例や操作画面で利用イメージを伝える
- 問い合わせ、無料トライアル、デモなどの導線を短くする
- 流入経路ごとに商談化率や契約率を確認する
ただし、契約数だけを増やすと、利用開始後の解約が増えることがあります。獲得した顧客が自社の対象顧客に合っているかも確認してください。
2. 無料ユーザーや見込み客の契約率を高める
無料トライアルや資料請求の数が多くても、有料契約につながらなければ月額収益は増えません。登録後に顧客が最初の価値を実感できるまでの流れを短くすることが重要です。
改善する際は、次のような行動を確認します。
- 登録後に初回ログインしているか
- 主要機能を一度でも使っているか
- データ登録や外部サービスとの連携を完了しているか
- 複数の担当者が利用しているか
- 無料期間終了前に有料化の案内を見ているか
登録完了だけを成果とせず、「顧客が価値を感じる行動」を定義します。その行動に到達していない顧客には、操作案内、メール、チャット、オンライン説明会などで支援します。
3. 解約率を下げる
解約を減らすことは、既存の月額収益を守る方法です。新規顧客を獲得しても、同じ期間に多くの顧客が解約すると、収益は積み上がりません。
解約理由を、推測ではなく実際の回答や利用データから分類します。たとえば、次のような分類が考えられます。
- 必要な機能が不足している
- 使い方が分からない
- 導入や社内展開が進まない
- 料金に対して利用頻度が低い
- 契約先の事業縮小や方針変更があった
原因によって対策は変わります。操作が難しいことが原因なら導入支援や画面改善、機能不足が原因なら開発方針の見直し、利用頻度の低さが原因なら利用目的に合うプランや活用方法の案内が必要です。
解約直前だけでなく、利用回数の減少、重要機能の未使用、問い合わせの増加など、解約につながる兆候を早めに確認することも有効です。
4. 上位プランへの移行を促す
顧客の利用量や必要な機能が増えたときに、上位プランへ移行できる設計にすると、顧客数を増やさず月額収益を高められます。
上位プランの価値が分かりにくい場合は、単に機能数を増やすのではなく、顧客の成長段階に合わせて違いを示します。
| 顧客の状態 | 提示しやすい価値 |
|---|---|
| 利用人数が増えた | 利用者数の拡大、権限管理、チーム機能 |
| データ量が増えた | 容量拡大、検索機能、保存期間の延長 |
| 管理業務が増えた | 自動化、レポート、承認機能 |
| 運用上の責任が大きくなった | 監査用機能、権限設定、サポート範囲 |
上位プランの案内は、契約直後に一律で表示するよりも、利用量が上限に近づいたときや、関連機能を使い始めたときに行うほうが、必要性を伝えやすくなります。
5. 追加機能や関連サービスを販売する
基本プランに含まれない機能、追加ユーザー、容量、サポート、連携機能などを提供する方法です。顧客が現在利用している機能と関係が深いものから提案すると、契約内容との関連性を説明しやすくなります。
ただし、機能を細かく分けすぎると料金体系が分かりにくくなります。追加料金を設定する場合は、次の点を確認します。
- 追加することで何が解決するのか
- どの顧客に必要な機能なのか
- 基本プランとの違いが明確か
- 利用量に応じた従量課金が適切か
- 請求額を顧客が予測できるか
6. 料金プランと価格を見直す
料金が顧客に提供する価値や利用規模と合っていない場合、価格を見直すことで月額収益が変わる可能性があります。価格を下げれば必ず契約数が増えるとは限らず、安さを重視しない顧客を取り逃す場合もあります。
まずは、顧客が何に対して料金を支払っているのかを整理します。利用者数、処理件数、管理対象数、保存容量、利用機能など、価値と結びつく指標を料金の基準にできるか検討します。
料金改定を行う場合は、既存顧客と新規顧客で適用時期や条件が異なることがあります。変更前に、契約書、利用規約、告知方法、請求システムへの影響を確認してください。
価格を変更した後は、契約率だけでなく、平均月額単価、解約率、問い合わせ数、上位プランへの移行率を合わせて確認します。
7. 年間契約や長期契約を用意する
年間契約は、契約期間を長くすることで解約のタイミングを減らし、収益の見通しを立てやすくする方法です。年払いを用意する場合は、月払いとの料金差、途中解約時の扱い、返金条件を明確にします。
年間契約の割引を設定する場合、値引き後の年間売上と、月払いを継続した場合の売上を比較します。仮に月額1万円のサービスを年間契約で10万円にすると、月払いを1年間続けた場合の12万円との差額は2万円です。
これは説明のための計算例であり、実際の価格設定では、解約率、回収時期、サポート費用、返金条件なども考慮する必要があります。
どの方法から始めるべきか
優先順位は、月額収益の内訳と顧客の行動によって変わります。次のように判断すると、施策を選びやすくなります。
| 確認した状態 | 優先しやすい施策 |
|---|---|
| 登録は多いが有料契約が少ない | 初回利用の支援、料金ページ、無料から有料への導線改善 |
| 契約数は増えるが解約も多い | 導入支援、利用定着、解約理由の分析 |
| 継続率は高いが平均単価が低い | 上位プラン、追加機能、料金体系の見直し |
| 特定の顧客層だけ契約率が高い | 対象顧客を絞った集客や営業 |
| 契約は多いが利用が少ない | オンボーディング、活用支援、不要契約の防止 |
一般に、解約率が高い状態で集客だけを増やすと、獲得コストをかけて契約した顧客が短期間で離れる可能性があります。そのため、まず利用開始と継続に大きな問題がないかを確認し、その後に集客や価格の改善を進める方法が考えられます。
改善効果を判断するための指標
月額収益の改善では、収益額だけでなく、その増加が継続するかを確認します。最低限、次の指標を月ごとに記録します。
- MRR:毎月継続して発生する収益
- 新規MRR:新規契約によって増えた月額収益
- 解約MRR:解約によって失われた月額収益
- 拡張MRR:上位プランや追加契約によって増えた月額収益
- 顧客数
- 平均月額単価
- 顧客の解約率
- 無料から有料への転換率
たとえば、月額収益が増えていても、値引きによって利益が減っている場合や、解約率が上昇している場合があります。施策を実施するときは、対象顧客、実施期間、見る指標を先に決め、変更前後を比較します。
月額収益を増やすための実行手順
- 現在の月額収益を分解する。顧客数、平均月額単価、新規契約、解約、上位変更、追加契約を月単位で整理します。
- 最も大きな減少要因を特定する。解約による減少が大きいのか、契約率が低いのか、単価が低いのかを確認します。
- 顧客を利用状況ごとに分ける。継続して使っている顧客、利用が減った顧客、無料期間中の顧客などに分類します。
- 改善施策を1つか2つに絞る。複数の変更を同時に行うと、どの施策が結果に影響したか分かりにくくなります。
- 対象と期間を決めて実施する。全顧客に一度に適用する前に、対象顧客や新規契約者から試す方法もあります。
- 収益と顧客行動を比較する。月額収益だけでなく、利用率、契約率、解約率、問い合わせ内容も確認します。
- 効果が確認できた施策を標準化する。営業資料、料金ページ、導入支援、プロダクト内の案内などに反映します。
月額収益を増やすときの注意点
値上げや機能の有料化だけを急ぐと、顧客の不満や解約につながることがあります。価格を変更する場合は、変更理由、対象となる契約、適用時期、利用できる機能を分かりやすく伝えます。
また、売上の増加と利益の増加は同じではありません。顧客が増えることでサポート費用、インフラ費用、営業費用が増える場合は、月額収益だけでなく顧客獲得費用や提供コストも確認します。
最初に行うことは、直近の月額収益を「新規契約」「解約」「上位変更・追加契約」「料金変更」に分けて表にすることです。その結果、顧客を増やすべきか、解約を減らすべきか、1社あたりの単価を高めるべきかを判断できます。







