SaaSのコホート分析は、同じ時期や同じ条件で利用を始めた顧客群(コホート)を分け、期間ごとの継続率・解約率・売上などを追跡する方法です。全顧客の平均だけでは見えにくい「どの時期に獲得した顧客が定着しているか」「どの顧客層の解約が多いか」を確認できます。
基本は、コホートの分け方を決める→追跡する指標と期間を決める→顧客データを集計する→コホートごとに比較するという順番で進めます。
SaaSのコホート分析とは
コホート分析では、顧客を「初回登録月」「有料化した月」「初回利用日」などの基準でグループ化します。その後、各グループが1か月後、2か月後、3か月後にどれだけ利用を続けているかを比較します。
たとえば、1月に有料契約した顧客、2月に有料契約した顧客、3月に有料契約した顧客をそれぞれ別のコホートとします。全顧客をまとめて分析するのではなく、契約開始時期ごとに追跡する点が特徴です。
コホートを分ける基準を決める
最初に、何を起点に顧客をグループ化するかを決めます。目的に合わない起点を選ぶと、分析結果を正しく解釈できません。
| コホートの基準 | 分かること | 向いている分析 |
|---|---|---|
| 無料登録月 | 登録後の利用継続 | オンボーディングや初回体験の評価 |
| 有料契約月 | 契約後の継続や解約 | 有料顧客のリテンション分析 |
| 初回利用月 | 実際に使い始めた顧客の定着 | 初回利用から継続利用までの分析 |
| 特定機能を初めて使った月 | 機能利用後の継続や売上変化 | 機能の価値や利用促進施策の評価 |
| 流入チャネル | 広告、検索、紹介など流入元ごとの差 | マーケティング施策の比較 |
有料契約後の解約を調べたい場合は「有料契約月」、登録後の初期離脱を調べたい場合は「無料登録月」を起点にするなど、分析目的と基準を一致させます。
SaaSのコホート分析を行う手順
1. 分析の目的を決める
まず、「何を改善するための分析か」を一つに絞ります。たとえば、次のような目的があります。
- 登録後の離脱が多い時期を特定する
- 有料契約後の解約率を比較する
- 流入チャネルごとの顧客の質を比べる
- 特定機能を使った顧客の継続率を確認する
- 顧客の継続による売上の変化を追跡する
目的が「解約を減らす」なら顧客継続率や解約率、「収益性を確認する」なら売上維持率や顧客生涯価値などを中心に設定します。
2. コホートの起点と期間を決める
次に、顧客を分ける起点と集計単位を決めます。SaaSでは月単位の分析が使われることが多いものの、利用頻度が高いサービスなら週単位、契約期間が長いサービスなら四半期単位が適する場合もあります。
たとえば、月額制サービスで有料契約後の継続を調べる場合は、次のように設定します。
- コホートの起点:初回有料契約月
- 集計単位:1か月
- 追跡期間:契約月から12か月
- 主な指標:顧客継続率、解約率、月次経常収益
「契約月」と「分析上の0か月目」を一致させると、コホート間を比較しやすくなります。
3. 分析に使う顧客データをそろえる
最低限、顧客を識別できるIDと、コホートの起点日、各期間の利用・契約・売上の情報を準備します。
| 項目 | 用途 |
|---|---|
| 顧客ID | 同じ顧客を期間ごとに追跡する |
| 登録日 | 登録コホートを作る |
| 初回契約日 | 有料契約コホートを作る |
| 解約日・契約終了日 | 解約率や継続期間を計算する |
| 利用日やログイン日 | 利用継続を判定する |
| 請求額・月次売上 | 売上維持率や顧客単価を確認する |
| 流入元・プラン・業種など | 顧客属性別に比較する |
顧客IDの重複、契約プラン変更、休止、無料期間、返金などの扱いもあらかじめ定義します。たとえば「ログインが1回あれば継続」とするのか、「主要機能を1回以上使ったら継続」とするのかで結果は変わります。
4. 継続の定義と指標を決める
コホート分析では、「継続している」と判定する条件を先に決めることが重要です。単なるログインではなく、サービスの価値につながる行動を継続の条件にすることもあります。
顧客継続率
顧客継続率は、コホートに含まれる顧客のうち、一定期間後も条件を満たしている顧客の割合です。
顧客継続率(%)=対象期間に継続している顧客数 ÷ コホートの開始時点の顧客数 × 100
仮に、4月に有料契約した顧客が100社で、そのうち3か月後も契約中の顧客が72社なら、3か月後の顧客継続率は「72÷100×100=72%」です。これは計算例であり、実際のSaaSの数値を示すものではありません。
顧客解約率
顧客解約率は、一定期間に契約を終了した顧客の割合です。計算方法は、分母を「期間開始時点の顧客数」にするか、「期間中の平均顧客数」にするかなどで変わるため、社内で定義を統一します。
継続率と解約率を同じ条件で計算しても、休止や再契約、契約プランの変更をどのように扱うかによって結果が変わる場合があります。
売上維持率
売上を追跡する場合は、コホートの売上が時間とともにどう変化したかを確認します。既存顧客の解約や減額だけでなく、プラン変更や追加契約による増額も含めるかを明確にします。
売上維持率(%)=対象期間のコホート売上 ÷ 開始時点のコホート売上 × 100
たとえば、開始時点の月次売上が100万円で、3か月後の同じ顧客群の月次売上が90万円なら、売上維持率は「90÷100×100=90%」です。計算に含める売上の範囲や返金の扱いは、分析前に定めておきます。
利用継続率・機能利用率
契約を継続していても、実際には利用していない顧客が含まれることがあります。そのため、ログイン、主要機能の利用、データ作成など、サービスの価値に近い行動を別に追跡すると、休眠化を把握しやすくなります。
5. コホート表を作成する
一般的には、行にコホート、列に起点からの経過期間を置きます。以下は説明用の仮定例です。
| 契約コホート | 0か月目 | 1か月目 | 2か月目 | 3か月目 |
|---|---|---|---|---|
| 1月契約 | 100% | 82% | 75% | 70% |
| 2月契約 | 100% | 88% | 79% | 74% |
| 3月契約 | 100% | 85% | 81% | 76% |
この表では、各コホートの開始時点を100%として、その後の顧客継続率を並べています。たとえば、3月契約コホートの3か月目が76%なら、開始時点の顧客のうち76%が3か月目にも継続条件を満たしたという意味です。
ただし、表の数値だけで原因までは分かりません。料金変更、季節性、営業担当、導入支援の有無など、コホートごとの条件も合わせて確認する必要があります。
6. コホート間の差を確認する
次の観点で比較すると、改善が必要な箇所を見つけやすくなります。
- 特定の月以降に継続率が上がったか、下がったか
- 1か月目から2か月目など、どの期間に離脱が集中しているか
- 流入チャネルや料金プランによって差があるか
- 特定機能を使った顧客と使っていない顧客で差があるか
- 顧客数では差がなくても、売上では差が出ていないか
たとえば、登録直後に離脱が集中しているなら、初回設定や導入手順に課題がある可能性があります。一方、数か月後に離脱が増える場合は、継続利用につながる機能やサポート、契約更新時の価値説明を確認します。これらは数値から導く仮説であり、顧客インタビューや利用ログで検証する必要があります。
分析結果を施策につなげる方法
コホート表を作るだけでは改善につながりません。差が見つかった期間や顧客群を特定し、原因を確認してから施策を実施します。
- 継続率や売上が大きく変化したコホートを特定する。
- そのコホートに共通する流入元、プラン、業種、導入支援の有無を比較する。
- 離脱前のログイン状況、主要機能の利用状況、問い合わせ内容を確認する。
- 必要に応じて顧客へインタビューし、離脱理由や利用目的を確認する。
- オンボーディング、メール案内、料金プラン、サポートなどの改善施策を実施する。
- 施策実施後に新しいコホートを作り、同じ定義で結果を比較する。
施策の効果を判断するときは、施策を実施したコホートだけを都合よく見るのではなく、同じ期間の他の顧客群や過去のコホートとも比較します。
コホート分析で注意したい点
コホートの人数が少ない場合
顧客数が少ないコホートでは、1社の解約や契約拡大だけで率が大きく変わります。割合だけで判断せず、各コホートの顧客数と売上額も併記してください。
直近コホートは比較期間が短い
最近作られたコホートは、6か月目や12か月目のデータがまだありません。空欄を「解約」や「継続なし」と解釈せず、比較できる経過期間だけを使います。
顧客の獲得条件が変わっている
広告、料金、無料トライアル、営業方法などが変わると、コホートごとの顧客構成も変化します。継続率の差をサービス改善だけの効果と判断せず、獲得条件の変更も確認します。
平均値だけで判断しない
全顧客の平均継続率が改善していても、一部の大口顧客だけが売上を支えている可能性があります。顧客数ベースと売上ベースの両方を確認し、必要に応じて企業規模やプラン別にも分けます。
継続の定義を途中で変えない
分析の途中で「ログイン」から「主要機能の利用」へ判定条件を変えると、過去のコホートとの比較が難しくなります。定義を変更した場合は、変更日と変更内容を記録し、可能なら過去データも同じ条件で再集計します。
最初に行うコホート分析の設定例
初めて分析する場合は、対象を広げすぎず、次のような小さな設定から始めると進めやすくなります。
- コホート:有料契約月
- 期間:契約後1〜6か月
- 指標:顧客継続率と解約率
- 補助項目:料金プラン、流入元、顧客規模
- 継続条件:各月に主要機能を1回以上利用
この設定で、どの月に離脱が増えるか、どの顧客群に差があるかを確認します。原因を調べる必要が出た段階で、機能利用、サポート利用、売上維持率などの指標を追加します。
SaaSのコホート分析は、顧客を同じ起点のグループに分け、継続率・解約率・利用率・売上を経過期間ごとに比較する方法です。まずは分析目的に合う起点と継続条件を決め、顧客数と売上の両方をコホート表で確認すると、改善すべき期間や顧客群を判断しやすくなります。







