SaaSのカスタマーサクセスにおける採算は、支援にかかった人件費やツール費用と、その顧客から得られる粗利・継続収益を比較して考えます。単に解約率を下げるだけでなく、顧客ごとの支援コストが、契約から得られる利益に見合っているかを確認することが重要です。
SaaSのカスタマーサクセスで採算を見る理由
カスタマーサクセス(CS)は、顧客の利用定着や成果創出を支援し、継続・更新や契約拡大につなげる活動です。一方で、担当者の人件費、オンボーディングの工数、問い合わせ対応、顧客向けイベント、CSツールの利用料などのコストが発生します。
支援によって解約や縮小を防げても、支援コストが顧客から得られる利益を上回れば、事業としては採算が合いません。そのため、CSの評価では顧客満足度や対応件数だけでなく、顧客単位・セグメント単位での収益性も確認します。
採算を判断する基本の計算式
CSの採算は、まず次の考え方で整理できます。
CSの採算 = 顧客から得られる粗利 − CSにかかった費用
ここでいう粗利は、売上からサービス提供に直接かかる費用を差し引いた金額です。売上全体ではなく粗利で考えることで、SaaSを提供するためのインフラ費用や外部サービス費用なども考慮できます。
CSにかかった費用に含めるもの
- カスタマーサクセス担当者の人件費
- オンボーディングや定例会にかかった時間
- 問い合わせ、活用支援、トラブル対応の工数
- CS向けの顧客管理・ヘルススコア・コミュニケーションツールの費用
- 顧客向けセミナーや訪問にかかる費用
- CS活動を支えるマネージャーや専門部署の費用
担当者の給与だけでなく、活動時間と人数に応じた間接費も含めると、実際の採算に近づきます。
採算を見るときに使う主な指標
顧客別の粗利
顧客別の粗利は、顧客の契約金額から、その顧客に直接ひもづくサービス提供コストを差し引いて計算します。
顧客別粗利 = 顧客の売上 − 顧客にかかる提供コスト
同じ月額料金の顧客でも、利用ユーザー数、データ量、問い合わせ件数、導入支援の難しさによって、提供コストは変わります。そのため、契約金額だけでCSの支援優先度を決めると、実際の利益とずれることがあります。
顧客生涯価値(LTV)
LTVは、1社の顧客が契約期間全体で生み出す利益を表す指標です。売上ベースで計算する場合もありますが、CSの採算を見るなら粗利ベースで考えるほうが適しています。
簡易的には、次のように計算します。
LTV = 月次粗利 × 平均継続月数
平均継続月数は、解約率などから推定することがあります。ただし、契約期間や解約の定義が異なると数値の意味も変わるため、自社の集計ルールをそろえて比較する必要があります。
顧客獲得コスト(CAC)
CACは、新しい顧客を1社獲得するためにかかった営業・マーケティング費用です。CSだけの費用ではありませんが、LTVと比較することで、獲得後の支援を含めた事業の回収可能性を考えられます。
一般的な確認方法は、次のとおりです。
LTVとCACの比較 = 顧客から得られる生涯粗利と、獲得・提供にかかる費用の比較
CSの採算だけを見る場合は、CACを直接CS費用に含めるのではなく、顧客獲得後にどの程度の粗利を残せるかを判断する材料として使います。
CSコスト比率
CSコスト比率は、CS費用が売上や粗利に対してどの程度の割合を占めるかを見る指標です。
CSコスト比率 = CS費用 ÷ 対象顧客の売上または粗利 × 100
売上を分母にするか粗利を分母にするかで意味が変わります。提供コストまで含めて収益性を見たい場合は粗利を使い、社内で計算方法を統一することが大切です。
採算は顧客セグメントごとに見る
全顧客の平均だけでは、採算のよい顧客と赤字になりやすい顧客が混ざってしまいます。契約金額、企業規模、導入難易度、利用状況などで顧客を分け、セグメントごとに支援コストと成果を比較します。
| セグメント例 | 確認する採算要素 | 支援方法の考え方 |
|---|---|---|
| 高単価・大企業 | 担当者の工数、個別要件、契約拡大の可能性 | 担当制や個別支援が採算に合うか確認する |
| 中単価・標準的な顧客 | オンボーディング工数、利用定着、更新率 | 標準手順と必要な個別対応を組み合わせる |
| 低単価・顧客数が多い層 | 1社あたりの対応時間、問い合わせ量 | メール、動画、ヘルプページ、セミナーなどで効率化する |
高単価の顧客でも、個別開発や頻繁な対応によってコストが大きくなれば、必ずしも高採算とは限りません。反対に、低単価の顧客でも、少ない工数で長く継続すれば採算が合う場合があります。
採算を計算する手順
- 顧客または顧客セグメントを決める。契約金額、契約期間、企業規模、利用プランなど、比較する単位をそろえます。
- 顧客から得た売上と粗利を集計する。月額・年額の契約金額だけでなく、提供に直接かかる費用も差し引きます。
- CSの対応時間を記録する。定例会、導入支援、問い合わせ、社内調整などにかかった時間を、できるだけ顧客別に集計します。
- 時間を人件費に換算する。担当者の人件費を1時間あたりに換算し、対応時間を掛けます。共通ツール費などは、合理的な基準で配賦します。
- 継続や拡大への影響を比較する。支援前後の解約率、更新率、利用率、追加契約などを確認します。
- 支援方法を見直す。採算が合わない場合は、支援対象、対応範囲、オンボーディングの標準化、自動化などを検討します。
計算後は、顧客別に「粗利」「CS費用」「CS費用を差し引いた利益」「更新・拡大の実績」を並べると、どの顧客にどの程度の支援が必要か判断しやすくなります。
仮定例:顧客1社のCS採算を計算する
以下は実際の料金や実績ではなく、計算方法を示すための仮定例です。
- 月額売上:10万円
- 月額の提供コスト:2万円
- 月間のCS対応時間:8時間
- CS担当者の人件費換算:1時間あたり5,000円
- CSツールなどの配賦費用:月5,000円
この場合、月額粗利は次のとおりです。
10万円 − 2万円 = 8万円
CS費用は、次のとおりです。
8時間 × 5,000円 + 5,000円 = 4万5,000円
CS費用を差し引いた月次の金額は、次のように計算できます。
8万円 − 4万5,000円 = 3万5,000円
この計算だけで支援の良し悪しを断定することはできません。支援によって解約を防げたか、追加契約につながったか、将来の対応工数を減らせたかも合わせて評価する必要があります。
採算が合わないときの見直し方
支援を一律対応から段階対応に変える
すべての顧客に同じ回数の定例会や個別支援を提供すると、利用状況や契約価値に対して過剰な対応になることがあります。顧客の利用状況や解約リスクに応じて、担当制、集団支援、デジタル支援などを使い分けます。
オンボーディングを標準化する
導入時に毎回個別の説明を行っている場合は、初期設定の手順、動画、チェックリスト、よくある質問を整備します。標準化によって、導入品質を保ちながら担当者の工数を減らせる可能性があります。
問い合わせの原因を減らす
問い合わせ件数だけを減らすのではなく、同じ質問が繰り返される原因を確認します。画面の分かりにくさ、説明不足、設定ミスなどを改善すれば、顧客の成功とCSの効率化を同時に進められる場合があります。
契約プランと支援範囲をそろえる
低価格プランで高価格プランと同じ個別支援を提供すると、採算が崩れやすくなります。プランごとに、定例会の有無、対応時間、導入支援の範囲、問い合わせ方法などを明確にします。
採算を見るときの注意点
- 短期の売上だけで判断しない:導入直後の支援は工数が大きくても、継続や契約拡大につながる場合があります。
- 対応件数だけで評価しない:対応件数が多いことが、顧客の成果や収益性を示すとは限りません。
- 解約率だけで結論を出さない:解約率の低下がCSの成果かどうかは、支援対象や契約条件の変化も含めて確認します。
- 平均値だけを見ない:顧客ごとの契約額、利用量、対応工数が大きく異なる場合、平均値では赤字顧客を見落とすことがあります。
- 売上と利益を混同しない:契約金額が大きくても、提供コストとCSコストが大きければ利益が残らない場合があります。
まとめ
SaaSのカスタマーサクセスの採算は、顧客から得られる粗利と、CSにかかった費用を顧客別・セグメント別に比較して判断します。LTV、CSコスト、対応工数、更新率、契約拡大などを同じ条件で集計すると、どの顧客にどの支援方法が適しているか見えやすくなります。
最初に行うことは、顧客ごとの「粗利」「CS対応時間」「人件費換算したCSコスト」「更新・拡大の結果」を同じ表にまとめることです。そのうえで、支援の標準化や顧客セグメントごとの対応方法を見直します。







