SaaSのROIを提示する方法とは?

SaaSのROIを提示する方法とは?

SaaSのROIを提示するには、導入前後の差を金額に換算し、投資額と効果の根拠を並べて示します。「便利になる」といった説明だけではなく、対象期間、利用人数、削減時間、売上への影響などの前提を明らかにすることが重要です。

SaaSのROIを計算する基本式

SaaSのROIは、投資によって得られる効果が、投資額に対してどれだけ大きいかを示す指標です。基本的には次の式で計算します。

ROI(%)=(導入による効果額-投資額)÷投資額×100

ここでいう投資額には、月額・年額の利用料だけでなく、導入時や運用時に必要な費用も含めます。

  • サービスの利用料
  • 初期設定・導入支援の費用
  • 既存システムとの連携費用
  • データ移行費用
  • 社員の研修・教育費用
  • 導入や運用にかかる社内工数
  • 追加オプションや保守にかかる費用

たとえば、年間の効果額が300万円、年間の投資額が100万円の場合、ROIは次のようになります。

(300万円-100万円)÷100万円×100=200%

これは、投資額を差し引いた利益相当額が200万円で、投資額に対して200%のリターンが見込まれるという計算例です。実際の結果を保証するものではなく、前提条件に基づく試算として提示します。

最初に「何を改善するSaaSか」を明確にする

ROIを示す前に、SaaSの導入目的を一つ以上の測定可能な項目に置き換えます。目的が曖昧なままだと、効果額の計算根拠も曖昧になります。

導入目的 測定する項目の例
業務時間の削減 作業時間、処理件数、担当者数、残業時間
人件費の抑制 外注費、採用人数、業務委託時間
売上の増加 商談数、成約率、客単価、継続率
ミスや手戻りの削減 修正件数、返金額、再作業時間、問い合わせ件数
意思決定の迅速化 集計時間、報告までの日数、承認にかかる時間

「業務を効率化する」ではなく、「月次レポートの作成時間を月40時間から10時間に減らす」のように、導入前後を比較できる形にします。

ROIの根拠になる導入前の基準値を集める

ROIを説得力のある形で提示するには、SaaS導入前の状態を基準値として記録します。導入前の数値がない場合は、担当者への聞き取りだけでなく、勤怠記録、作業ログ、請求書、問い合わせ履歴なども確認します。

特に確認したいのは、次の項目です。

  • 対象業務にかかっている時間
  • 対象業務を担当している人数
  • 現在利用しているシステムや外注の費用
  • ミス、やり直し、問い合わせの発生件数
  • 処理件数、商談数、成約率などの業績指標
  • 繁忙期と通常期の差

担当者が「1件あたり約10分」と回答した場合も、件数と期間を掛け合わせて確認します。たとえば、月1,000件を処理する業務なら、10分×1,000件で月166.7時間程度です。ただし、実際の工数には確認や修正の時間が含まれない可能性があるため、試算上の前提として明記します。

SaaS導入後の効果を金額に換算する

効果は、削減できる費用だけでなく、増加する売上や損失の回避も含めて整理します。ただし、売上増加をすべてSaaSの効果とみなすのではなく、導入による影響範囲を慎重に設定します。

業務時間を削減する場合

業務時間の削減効果は、削減時間に社内単価を掛けて算出します。

削減効果額=削減時間×時間単価

仮に、月50時間の削減が見込まれ、対象者の時間単価を2,500円と置く場合、効果額は次のとおりです。

50時間×2,500円×12か月=年間150万円

これは計算例です。時間単価には、給与だけを使うのか、法定福利費などを含めた人件費を使うのかを決め、計算資料に明記します。また、削減された時間が実際に人員削減につながるのか、別の業務に振り向けられるのかによって、経営上の効果の表現は変わります。

外注費や既存システム費を削減する場合

既存の外注やシステムをSaaSに置き換える場合は、導入後に本当に解約・縮小できる費用だけを効果に含めます。

削減効果額=導入前の対象費用-導入後も残る費用

既存システムを一部だけ使い続ける場合や、契約期間中で解約できない場合は、全額を削減効果として計上しません。契約更新月や解約条件も確認します。

売上や成約率が上がる場合

売上への効果は、SaaS以外の施策や市場環境にも左右されるため、削減効果より慎重に計算します。次のように、改善した指標と利益率を使って試算します。

増加利益額=増加売上×粗利率

たとえば、導入によって年間売上が500万円増える仮定を置き、粗利率を40%とする場合、効果額は200万円です。ただし、この増加がSaaSだけによるものと確認できない場合は、「導入により必ず増える利益」ではなく、「想定シナリオ」として提示します。

ミスや手戻りを減らす場合

ミスの削減効果は、再作業時間、返金、再発送、機会損失などに分けて計算します。単に「ミスが減る」と書くのではなく、何が減るのかを示します。

  • 再作業時間×時間単価
  • 返金・再発送にかかる費用
  • 外注先への修正依頼費用
  • 問い合わせ対応時間×時間単価

顧客満足度やブランドイメージのように金額化しにくい効果は、無理にROIへ含めず、定性的な効果として別に記載します。

投資額は「利用料以外」も含めて提示する

SaaSのROIが過大に見えないように、継続利用に必要な費用を期間単位でそろえます。月額料金だけを投資額にすると、初期設定や社内対応のコストが抜けることがあります。

費用項目 確認する内容
利用料 ユーザー数、プラン、契約期間、従量課金の有無
初期費用 初期設定、導入支援、環境構築の料金
連携費用 API連携、追加開発、既存システムの改修費
移行費用 データ整理、インポート、旧システムからの移行作業
社内工数 要件整理、設定、研修、問い合わせ対応の時間
追加費用 オプション、超過料金、サポート、更新時の費用

税別・税込のどちらで計算するかも統一します。料金が利用人数や使用量によって変わる場合は、想定ユーザー数や月間処理件数を前提に記載します。

回収期間も一緒に示す

ROIだけでは、投資をいつ回収できるかが分かりません。意思決定では、ROIとあわせて投資回収期間を提示すると判断しやすくなります。

投資回収期間=投資額÷1か月あたりの純効果額

たとえば、初期費用と1年分の利用料を合わせた投資額が120万円、毎月の効果額から毎月の運用費を差し引いた純効果額が20万円の場合、回収期間は次の計算例になります。

120万円÷20万円=6か月

実際には、導入直後から最大の効果が出るとは限りません。データ移行や利用定着に時間がかかる場合は、導入初期の効果を低く見積もった回収期間も示します。

提示資料は「前提・計算・結果」の順に作る

SaaSのROIを社内で説明するときは、結論の数値だけでなく、その数値に至った過程を確認できるようにします。次の順番でまとめると、数値の妥当性を確認しやすくなります。

  1. 解決したい業務課題と対象範囲を記載する。
  2. 導入前の件数、時間、費用などの基準値を示す。
  3. 導入後に変化すると見込む指標と、その根拠を示す。
  4. 利用料、初期費用、社内工数などの投資額を整理する。
  5. 効果額から投資額を差し引き、ROIを計算する。
  6. 投資回収期間と、効果が出るまでの期間を示す。
  7. 前提が変わった場合のシナリオを比較する。

「削減時間」「時間単価」「年間利用料」のように、第三者が計算し直せる項目に分けておくことがポイントです。数値の出典が社内実績なのか、提供会社の資料なのか、仮定なのかも区別します。

1つの予測値ではなく、複数のシナリオで提示する

導入前の見込みだけでROIを計算すると、利用率や効果の実現度によって結果が大きく変わる可能性があります。保守的、標準的、楽観的など、複数の条件で試算します。

シナリオ 利用・効果の前提 示す内容
保守的 利用率や削減効果を低めに設定 効果が小さい場合でも許容できるか
標準的 検証結果や導入前の実績に近い設定 通常の判断材料
楽観的 十分に定着し、高い効果が出る設定 上限としての参考値

たとえば、削減時間を月20時間、50時間、80時間の3パターンで計算すれば、どの水準で投資を回収できるかを確認できます。標準シナリオだけでなく、保守的な条件でも投資に見合うかを示すと、判断のリスクを把握しやすくなります。

ROIを提示するときの注意点

ROIは便利な指標ですが、計算方法によって結果が変わります。次の点を資料に明記してください。

  • 対象期間が月次、年次、複数年のどれか
  • 料金が税込か税別か
  • 初期費用と継続費用を含んでいるか
  • 社内工数を費用として計上しているか
  • 削減時間を人件費削減として扱うのか、別業務への再配分として扱うのか
  • 売上増加をSaaSの効果として扱う根拠があるか
  • 契約期間、最低利用期間、ユーザー数の変動を反映しているか
  • 導入効果が出るまでの期間を考慮しているか

特に、「削減できる時間」と「実際に削減できる費用」は同じではありません。時間が空いても人員を減らさない場合、その効果は費用削減ではなく、別の業務に使える余力として提示するほうが正確です。

説得力のあるROI資料にするための確認方法

導入前の試算だけで判断せず、導入後に実績と比較できる仕組みを作ります。対象業務、測定期間、目標値をあらかじめ決めておくと、見込みと実績の差を確認できます。

  1. 導入前の処理時間、件数、費用を記録する。
  2. SaaSを使う対象部署・対象業務を決める。
  3. 利用率、処理時間、エラー件数などの測定項目を設定する。
  4. 導入後の一定期間で実績を集計する。
  5. 導入前の基準値と導入後の実績を同じ条件で比較する。
  6. 実績に基づいてROIと回収期間を再計算する。

導入後の実績が試算を下回った場合は、料金だけでなく、利用率、対象業務、設定方法、教育状況、想定した効果の妥当性を確認します。ROIは導入を正当化するためだけでなく、導入後の改善点を見つける指標としても利用できます。

SaaSのROIを提示するときは、効果額だけを大きく見せず、「導入前の基準値」「効果の計算根拠」「すべての投資額」「対象期間」「不確実な前提」をセットで示すことが重要です。まずは対象業務の現状コストと時間を測定し、保守的な条件を含む複数のシナリオでROIと回収期間を計算すると、実態に合った判断につながります。