SaaSの顧客セグメント分析は、顧客を属性や利用状況、契約金額、解約リスクなどの共通点で分け、セグメントごとに施策を変えるために行います。基本の流れは、分析目的を決める→データを整える→分類軸を選ぶ→セグメントを作る→指標を比較する→施策を実行して見直すです。
会社規模だけで分けるのではなく、契約後の利用状況や継続・解約との関係まで確認すると、営業、マーケティング、カスタマーサクセスの判断に使いやすくなります。
SaaSの顧客セグメント分析を行う目的
顧客セグメント分析の目的は、顧客ごとの違いを把握し、限られた営業・サポート・マーケティングのリソースを適切に配分することです。全顧客に同じ施策を行うよりも、課題や利用状況に合わせて対応しやすくなります。
たとえば、次のような判断に利用できます。
- どの顧客層が契約金額や継続率に貢献しているか
- どの顧客層で利用が定着しやすいか
- 解約や利用減少の兆候がどの顧客層に多いか
- どの顧客層に営業や広告の予算を配分するか
- 顧客層ごとにオンボーディングやサポートをどう変えるか
分析の目的が違えば、必要な分類軸や見るべき指標も変わります。最初に「何を決めるための分析か」を明確にすることが重要です。
最初に分析の目的と対象を決める
まず、分析によって明らかにしたいことと、対象にする顧客の範囲を決めます。目的が曖昧なまま多くのデータを集めると、セグメントを作ること自体が目的になりやすいためです。
目的の決め方
目的は、次のように具体的な問いに置き換えると整理しやすくなります。
- 契約後の利用定着を高めるには、どの顧客層を優先すべきか
- 解約率が高い顧客には、どのような共通点があるか
- 上位プランへ移行しやすい顧客はどのような企業か
- 営業が注力すべき業種や会社規模はどこか
- サポート対応を手厚くする顧客をどう判定するか
分析対象をそろえる
分析対象には、既存顧客だけでなく、商談中の企業、無料トライアル利用者、解約済み顧客などを含めることがあります。ただし、契約前と契約後では確認できるデータが異なるため、同じ基準で比較しないようにします。
たとえば、解約要因を分析する場合は、現契約中の顧客だけでなく、一定期間内に解約した顧客も対象に含めます。一方、広告のターゲットを決める場合は、契約に至った企業や商談化した企業の特徴を中心に確認します。
分析に使うデータを整理する
次に、顧客情報、契約情報、利用データ、問い合わせ履歴などを顧客IDで結び付けます。顧客ごとに情報が分散している場合は、同じ企業や利用者を重複して数えないように統合します。
主に使うデータ項目
| 分類 | 主な項目 | 分かること |
|---|---|---|
| 企業属性 | 業種、従業員数、所在地、事業規模 | どのような企業が利用しているか |
| 契約情報 | プラン、契約期間、契約金額、契約開始日 | 売上や契約条件の違い |
| 利用状況 | ログイン頻度、利用ユーザー数、主要機能の利用回数 | 定着度や活用状況 |
| 行動履歴 | トライアル開始、資料請求、商談、プラン変更 | 契約やアップセルにつながる行動 |
| 顧客対応 | 問い合わせ数、相談内容、サポート履歴 | つまずきやすい点や支援の必要性 |
| 結果データ | 継続、解約、更新、アップセル | 各セグメントの成果の違い |
利用データを扱う際は、集計期間をそろえることが大切です。月次の利用状況と年間の解約結果を比較する場合などは、対象期間や判定基準を明確にしておきます。
分析前に確認すること
- 顧客IDや企業名が統一されているか
- 契約中、解約済み、トライアル中の状態が区別されているか
- 同じ顧客の複数契約を重複して集計していないか
- 利用回数の定義が期間ごとに変わっていないか
- 欠損値や異常値が分析結果に影響していないか
目的に合わせてセグメントの軸を選ぶ
顧客セグメントの分類軸は、分析目的に関係するものを選びます。分類軸を増やしすぎると、1つのセグメントに顧客が少なくなり、施策を実行しにくくなります。
代表的な分類軸
| 分類軸 | 分類例 | 向いている分析 |
|---|---|---|
| 企業属性 | 業種、従業員数、地域、事業規模 | 営業対象やマーケティング施策の検討 |
| 契約状況 | 料金プラン、契約金額、契約期間 | 売上構成やアップセルの検討 |
| 利用状況 | 高頻度利用、低頻度利用、特定機能のみ利用 | 定着支援や機能改善の検討 |
| 顧客の課題 | 業務効率化、コスト削減、管理の一元化 | 訴求内容や導入支援の見直し |
| ライフサイクル | トライアル、導入直後、定着、更新前 | 段階に応じたコミュニケーション |
| 成果やリスク | 継続見込み、解約リスク、拡張余地 | カスタマーサクセスの優先順位付け |
たとえば、解約リスクを把握したい場合は、業種だけでなく「契約後の利用頻度」「主要機能の利用有無」「問い合わせ履歴」「更新時期」などを組み合わせます。これらの項目が解約と関係しているかは、自社データで確認する必要があります。
セグメントを作成し、指標を比較する
分類軸を決めたら、顧客をグループに分け、セグメントごとに同じ指標を比較します。単に顧客数が多いグループを重要と判断せず、売上、継続、利用、対応コストなどを合わせて確認します。
比較する主な指標
- 顧客数、契約社数、契約ユーザー数
- 平均または中央値の契約金額
- 継続率、更新率、解約率
- 月次・週次の利用頻度
- 主要機能の利用率
- トライアルから契約への転換率
- プラン変更や追加契約の状況
- 問い合わせ件数やサポート対応時間
平均値だけでは、一部の大口顧客の影響を受けることがあります。契約金額や利用ユーザー数にばらつきが大きい場合は、平均値と中央値を使い分け、分布も確認します。
セグメント比較の例
仮に、顧客を「従業員規模」と「利用頻度」で分類すると、次のような見方ができます。
| セグメント | 確認する内容 | 考えられる施策 |
|---|---|---|
| 小規模・高頻度利用 | 継続率、標準機能の利用状況 | セルフサービス支援、上位プランの案内 |
| 小規模・低頻度利用 | 導入時のつまずき、利用目的との適合 | 初期設定支援、利用方法の案内 |
| 大規模・高頻度利用 | 利用拡大の余地、契約更新、管理上の課題 | 専任支援、追加機能や追加契約の提案 |
| 大規模・低頻度利用 | 社内展開の状況、導入目的とのずれ | 活用計画の見直し、利用部門への支援 |
表の施策はあくまで検討例です。実際にどの施策が有効かは、各セグメントの契約状況や顧客の課題を確認して決めます。
セグメントごとに施策へつなげる
分析結果は、セグメントごとの行動計画に落とし込みます。「大企業」「利用が少ない顧客」のような分類で止めず、誰に、何を、いつ行うかまで決めることが必要です。
- マーケティング:反応のよい業種や課題に合わせて訴求内容や配信先を調整する
- 営業:契約金額や導入可能性だけでなく、導入目的や決裁構造を踏まえて優先順位を付ける
- オンボーディング:導入直後の顧客に、初期設定や最初に使う機能を案内する
- カスタマーサクセス:利用が減った顧客や更新が近い顧客に、状況に応じた支援を行う
- プロダクト改善:特定の顧客層で利用されない機能や、操作上のつまずきを確認する
セグメントごとに施策を変える場合は、施策を行わない比較対象を置けるかも検討します。比較対象がない場合、結果の変化が施策によるものか、季節性や契約更新の影響かを判断しにくくなります。
分析結果を検証し、定期的に見直す
作成したセグメントが実務に役立つかは、施策を実行した後の結果で検証します。セグメント間に数値の差があっても、それだけで原因が分かったとは限らないため、顧客へのヒアリングや営業・サポート担当者の記録も確認します。
確認するポイントは次のとおりです。
- セグメントごとに施策や担当者が変えられるか
- 分類した顧客に共通する課題があるか
- 継続率や利用状況など、目的に合った差が出ているか
- 顧客数が少なすぎて、結果が不安定になっていないか
- 分類後に顧客の状態が変化した場合、再分類できるか
顧客の契約プラン、利用状況、組織構成は変わります。そのため、セグメントを一度作って終わりにせず、月次や四半期など自社の運用に合った間隔で更新します。更新頻度は、顧客の変化の速さや施策の実行期間を考慮して決めます。
顧客セグメント分析で起こりやすい失敗
分類軸を増やしすぎる
業種、地域、会社規模、プラン、利用機能などを同時に細かく分けると、各セグメントの顧客数が少なくなります。まずは目的に直結する分類軸を少数選び、必要に応じて追加します。
属性だけで顧客を判断する
同じ業種や会社規模でも、導入目的や利用方法が異なることがあります。企業属性だけでなく、契約後の行動や利用状況を組み合わせて確認します。
相関を原因と解釈する
あるセグメントの解約率が高くても、その属性が直接の原因とは限りません。導入時期、契約プラン、導入支援の有無など、ほかの条件が影響している可能性があります。セグメント間の差は「関係があるかもしれない」という手がかりとして扱い、原因の断定は避けます。
分析結果を施策へつなげない
レポートを作成するだけでは、顧客体験や事業成果は変わりません。各セグメントについて、担当部署、実行する施策、確認する指標、見直し時期を決めておきます。
SaaSの顧客セグメント分析を進める順番
迷った場合は、次の順番で進めると分析を始めやすくなります。
- 解約防止、営業の優先順位付け、利用促進など、分析の目的を1つ決める
- 対象期間と対象顧客を決め、顧客IDを基準にデータを統合する
- 目的に関係する分類軸を1〜2個選ぶ
- セグメントごとに顧客数、契約金額、継続・解約、利用状況を比較する
- 差が大きいセグメントについて、顧客の課題や行動履歴を確認する
- セグメントごとの施策と評価指標を決めて実行する
- 結果を確認し、分類軸や施策を見直す
重要なのは、複雑な分析手法を最初から使うことではありません。まずは目的に合うデータをそろえ、比較可能なセグメントを作り、施策の判断に使えるかを確かめることです。







