SaaSの契約更新率を改善する方法とは?

SaaSの契約更新率を改善する方法とは?

SaaSの契約更新率を改善するには、解約が決まる直前ではなく、契約開始後から継続的に「利用価値」を伝え、解約につながる兆候へ早く対応することが重要です。具体的には、更新率の定義と計算方法をそろえたうえで、オンボーディング、利用状況の把握、定期的な成果確認、更新手続きの管理を改善します。

SaaSの契約更新率を改善する基本的な考え方

契約更新率とは、一定期間に更新時期を迎えた契約のうち、どれだけの契約が更新されたかを示す指標です。改善では、単に更新月の顧客へ営業をかけるのではなく、顧客が「契約を続ける理由」を得られているかを確認します。

顧客が解約する主な理由は、サービスを使いこなせない、導入効果を実感できない、利用頻度が下がる、担当者が変わって運用が止まる、料金に見合う価値を感じられない、といったものです。ただし、実際の原因はサービスや顧客によって異なるため、解約理由を記録して分析する必要があります。

まず契約更新率の計算方法と対象期間をそろえる

契約更新率を正しく改善するには、何を分母・分子にするかを決め、契約期間や対象顧客を統一して測定します。

契約件数を基準にした更新率は、次の式で計算できます。

契約更新率 = 更新された契約数 ÷ 更新時期を迎えた契約数 × 100

たとえば、更新時期を迎えた契約が100件あり、そのうち85件が更新した場合、契約更新率は85%です。新規契約数を分母に含めたり、更新時期がまだ来ていない契約を分母に含めたりすると、実態と異なる数値になるため注意してください。

また、契約件数だけでなく、売上を基準にした指標も確認すると判断しやすくなります。

  • GRR:既存顧客の解約や減額を差し引いた、売上の維持率
  • NRR:既存顧客の解約・減額に加え、追加契約や増額も含めた売上の維持率

契約件数の更新率が高くても、大口顧客の解約が続いていれば事業への影響は大きくなります。契約更新率とあわせて、解約率、減額率、顧客単価別の更新状況も確認しましょう。

契約更新率を改善する7つの方法

1. 契約開始直後にオンボーディングを設計する

契約更新率を改善するには、契約後の早い段階で顧客がサービスを使い始め、最初の成果を得られる状態を作ります。初期設定や操作説明を顧客任せにすると、導入したものの利用されない状態になりやすいためです。

オンボーディングでは、次の項目をあらかじめ決めておくと運用しやすくなります。

  • 契約後に最初に設定する機能
  • 利用開始までの担当者と期限
  • 顧客側で準備するデータや権限
  • 初回利用や初期成果を確認する方法
  • つまずいた場合の問い合わせ先

「すべての機能を説明する」よりも、顧客の目的に直結する機能を優先することが大切です。たとえば、営業管理が目的の顧客であれば、全機能の紹介よりも、顧客情報の登録からレポート確認までの流れを完成させることを優先します。

2. 顧客の導入目的と成功条件を言語化する

顧客が何を達成したいのかを契約時に確認し、更新判断の基準となる「成功条件」を具体化します。目的が曖昧なままだと、利用していても成果を評価できず、契約継続の必要性を説明しにくくなります。

次のように、導入目的を確認できる形へ置き換えます。

曖昧な目的 確認しやすい成功条件の例
業務を効率化したい 対象業務の作業時間や手作業の件数を導入前後で比較する
社内で活用したい 対象部署の利用者が決めた操作を完了できる状態にする
情報を一元管理したい 指定した情報をサービス上で確認できる状態にする

数値目標を設定する場合は、顧客と合意した内容を記録してください。サービス側だけで目標を決めると、顧客が重視する成果とずれる可能性があります。

3. 利用状況を見て、低下の兆候に早く対応する

利用状況を確認すると、更新時期を迎える前に支援が必要な顧客を見つけられます。ログイン回数だけで判断せず、顧客の目的に関係する操作が行われているかを見ます。

  • 主要機能を利用しているか
  • 利用者数が契約時の想定から減っていないか
  • 登録データや処理件数が一定期間で止まっていないか
  • 管理者だけでなく、実際の利用者も使っているか
  • 問い合わせや不具合が解決した後、利用が戻っているか

ただし、利用回数が少ないことだけで解約を予測することはできません。利用頻度が低くても重要な業務で使われている場合があるため、利用データと顧客への確認を組み合わせて判断します。

4. 顧客の状態を表すヘルススコアを作る

ヘルススコアは、顧客の継続可能性や支援の必要性を判断するための指標です。利用状況、成果の達成度、問い合わせ、顧客との接点などを組み合わせて、顧客の状態を分類します。

たとえば、次のような項目を使えます。

項目 確認する内容 対応例
利用状況 主要機能や利用者数の変化 利用方法の案内や活用支援を行う
導入成果 契約時に決めた成功条件の達成状況 成果の確認会を設定する
問い合わせ 未解決の質問や不具合の有無 解決状況と再発防止策を共有する
関係者 担当者や決裁者との接点 担当者変更や組織内の状況を確認する

ヘルススコアは、点数を作ること自体が目的ではありません。低い顧客を見つけた後に、誰が、いつまでに、どの支援を行うかまで決めておくことが重要です。

5. 更新直前ではなく、早い時期から更新の話をする

更新確認は、契約終了の直前に一度だけ行うのではなく、契約期間に応じて計画的に進めます。直前では、課題の解決や社内稟議に必要な時間が不足する可能性があります。

更新前には、次の内容を確認します。

  1. 契約時に設定した目的と、現在の達成状況を整理する。
  2. 利用されている機能と、使われていない機能を確認する。
  3. 顧客が感じている効果、不満、今後の課題を聞く。
  4. 担当者、決裁者、請求先などの更新関係者を確認する。
  5. 契約条件や更新手続きの期限を共有する。
  6. 継続時に実現したい目標を顧客と合意する。

更新の依頼だけをするのではなく、これまでの成果と次の期間に得られる価値を顧客と確認することがポイントです。

6. 顧客との定期的な成果確認を行う

定期的な成果確認では、サービスの機能説明よりも、顧客の業務や目標にどのような変化があったかを話します。導入後に得られた効果を顧客自身が説明できる状態になると、継続の判断材料を作りやすくなります。

成果確認で扱う内容は、次のように整理できます。

  • 導入前に困っていたこと
  • 現在の利用状況
  • 導入後に変わった業務や数値
  • まだ解決していない課題
  • 次の契約期間で達成したいこと

成果を示す数値が取れない場合は、定性的な変化だけで結論を出さず、何を測定すれば効果を確認できるかを顧客と決めます。

7. 解約理由を分類し、プロダクトや支援を改善する

解約が発生したら、単に「価格が高い」「使われなかった」と記録するのではなく、背景を確認して分類します。表面的な理由だけでは、同じ解約を繰り返す原因を特定しにくいためです。

分類例には、次のようなものがあります。

  • 導入目的や期待値の不一致
  • 初期設定や操作の難しさ
  • 利用者への社内展開不足
  • 必要な機能や連携の不足
  • 予算削減や組織変更
  • 競合サービスへの移行
  • サポートや不具合への不満

解約理由を、顧客属性、契約プラン、導入経路、利用期間、担当チームなどの条件別に集計すると、特定の顧客層やプロセスに問題が集中しているか確認できます。理由が確認できない場合は、「不明」と記録し、推測で分類しないようにします。

契約更新率を改善するときの優先順位

すべての施策を同時に始める必要はありません。まずは更新率と解約への影響が大きい工程を特定し、次の順番で整えると取り組みやすくなります。

  1. 契約更新率、解約率、減額率の定義を統一する。
  2. 過去の解約理由を、顧客条件ごとに分類する。
  3. 契約開始後のオンボーディング手順を標準化する。
  4. 顧客ごとの導入目的と成功条件を記録する。
  5. 利用低下や未解決課題を確認する仕組みを作る。
  6. 更新前の成果確認と手続きのスケジュールを決める。
  7. 施策実施後に、顧客層や契約期間別の指標を比較する。

改善前後を比較するときは、全体の更新率だけでなく、同じ条件の顧客群で比べます。契約期間や顧客規模が異なる集団を混ぜると、施策の効果を正しく判断できないことがあります。

契約更新率の改善で注意したいこと

契約更新率を上げることだけを目的にすると、顧客にとって必要のない追加提案や、解約を先延ばしする対応につながる可能性があります。顧客の利用目的に合わない契約を無理に続けても、長期的な信頼にはつながりません。

また、更新率が高くても、値引きの拡大やサポート工数の増加で利益が下がっている場合があります。契約更新率だけで評価せず、売上維持率、顧客単価、サポートコスト、顧客の成果もあわせて確認してください。

ヘルススコアや解約予測を利用する場合も、判定結果をそのまま事実とみなさないことが大切です。スコアが低い理由を利用データや顧客との会話で確認し、必要な支援につなげます。

まとめ

SaaSの契約更新率を改善するには、更新時期の営業活動だけでなく、契約開始直後から顧客の成果を支援する仕組みが必要です。特に、導入目的の明確化、オンボーディング、利用状況の確認、定期的な成果共有、解約理由の分析が基本になります。

最初に行うことは、更新率の計算対象と指標をそろえ、過去の解約理由を分類することです。その結果をもとに、顧客が価値を実感できていない工程から改善すると、自社に合った契約更新率の向上策を組み立てやすくなります。