SaaSの契約更新率を改善するには?

SaaSの契約更新率を改善するには?

SaaSの契約更新率を改善するには、更新直前の値引き交渉だけでなく、契約期間中に顧客が継続利用する理由を作ることが重要です。特に、導入初期の定着、利用価値の可視化、解約リスクの早期発見、更新手続きの管理を一連の流れとして整えると、改善すべき箇所を見つけやすくなります。

まずは契約更新率の定義と計算方法を統一し、顧客の利用状況や解約理由をもとに施策の優先順位を決めましょう。

SaaSの契約更新率を改善する基本的な考え方

契約更新率を改善するには、「更新時期が来た顧客に更新をお願いする」のではなく、「顧客がサービスの価値を得られている状態を継続的に作る」必要があります。

契約更新に影響しやすい要素は、主に次の4つです。

  • 導入後に利用開始できているか
  • 利用が担当者個人にとどまらず、組織に定着しているか
  • 導入前に設定した目的や成果を達成できているか
  • 更新条件や手続きが、期限までに明確になっているか

このうち、更新直前の営業活動で変えやすいのは契約条件や手続きです。一方、利用定着や成果の実感には時間がかかるため、契約期間の早い段階から支援する必要があります。

契約更新率の計算方法を統一する

施策の効果を判断するには、誰を分母と分子に含めるかを決めて、同じ方法で継続的に計測します。

顧客数を基準にした契約更新率は、一般に次の式で計算します。

契約更新率 = 更新した契約数 ÷ 更新対象になった契約数 × 100

たとえば、ある期間に更新対象となった契約が50件あり、そのうち40件が更新した場合、契約更新率は80%です。

ただし、無料トライアルから有料契約への転換率、契約件数の更新率、売上金額を基準にした継続率は別の指標です。これらを混ぜると、改善施策の効果を判断しにくくなります。

指標 見る内容 注意点
契約更新率 契約数ベースで更新した割合 大口顧客と小口顧客を同じ1件として扱う
売上継続率 更新後も維持できた売上の割合 解約だけでなく、減額や増額の影響を受ける
解約率 一定期間に解約した割合 契約数ベースか売上ベースかを明示する
利用継続率 ユーザーやアカウントが継続利用している割合 利用していても成果が出ているとは限らない

月契約と年契約が混在する場合は、契約期間別に分けて集計します。また、新規顧客と既存顧客、料金プラン、業種、導入規模などで分けると、更新しにくい顧客層を特定しやすくなります。

契約更新率を改善する7つの施策

1. 契約開始後のオンボーディングを整える

更新率を改善するには、契約開始後の早い段階で顧客が主要な機能を使い始められる状態を作ります。オンボーディングとは、顧客がサービスを使い始め、導入目的を達成できるよう支援する活動です。

単に操作方法を説明するのではなく、次のように導入の完了条件を決めます。

  • 初回ログインを完了する
  • 必要なユーザーを登録する
  • 既存データを取り込む
  • 主要な機能を使って最初の業務を完了する
  • 社内で利用ルールや担当者を決める

顧客ごとに導入目的が違う場合は、「設定完了」だけでなく「目的に近づく行動」を完了条件にします。たとえば、業務時間の削減が目的なら、対象業務をサービス上で実行し、導入前後の時間を比較できる状態を目指します。

2. 顧客が得た価値を定期的に確認する

顧客がサービスの価値を実感できているかを、更新直前まで待たずに確認します。導入時に決めた目的と、実際の利用状況や成果を定期的に照らし合わせることが大切です。

確認する項目の例は次のとおりです。

  • 導入時に解決したかった課題
  • 利用している部署やユーザー数
  • 主要機能の利用状況
  • 導入前後で変化した作業時間や処理件数
  • 顧客がまだ達成できていない目的

数値で表せる成果がない場合でも、業務の流れが変わった点や、手作業が減った点などを顧客と整理します。成果を一方的に主張するのではなく、顧客が社内で説明できる形にまとめることが更新判断に役立ちます。

3. 利用状況から解約リスクを早く見つける

解約リスクは、更新月の直前ではなく、利用低下や担当者の変化などの兆候から早めに把握します。

確認するシグナルには、次のようなものがあります。

  • ログイン頻度や利用ユーザー数が下がった
  • 主要機能が使われていない
  • 導入後の設定が途中で止まっている
  • 問い合わせが急に増えた、またはまったくなくなった
  • 担当者が異動・退職した
  • 請求や契約に関する問い合わせが増えた
  • 顧客から不満や改善要望が繰り返し出ている

ただし、ログイン回数が多いことだけで継続意思が強いとは判断できません。重要なのは、顧客が目的の業務を実行できているか、成果につながる機能を使っているかです。

利用状況、問い合わせ履歴、顧客との面談内容などを組み合わせて、顧客の状態を「順調」「注意」「要対応」のように分類すると、支援対象を決めやすくなります。点数化する場合も、点数だけで自動的に解約を断定せず、担当者が理由を確認できる運用にします。

4. 利用が一部の担当者に偏らないようにする

サービスの利用が1人の担当者に依存していると、その担当者の異動や退職をきっかけに利用が止まる可能性があります。複数の利用者や管理者が操作できる状態を作り、社内で使い方を共有してもらいます。

具体的には、次のような支援が考えられます。

  • 複数担当者向けの操作説明会を行う
  • 管理者と実際の利用者の役割を分ける
  • 社内向けの操作手順や利用ルールを用意する
  • 新しい担当者が使える引き継ぎ資料を作る
  • 利用部署を広げる場合の条件や進め方を案内する

利用者を増やすこと自体を目的にせず、顧客の業務に必要な範囲で利用の定着を進めます。

5. 問い合わせや不満を解約前に解消する

問い合わせ対応では、個別の質問に答えるだけでなく、同じ問題が繰り返されていないかを確認します。解約につながる不満は、機能不足だけでなく、使い方が分からない、導入効果を説明できない、対応が遅いといった運用面にもあります。

問い合わせを次のように分類すると、改善の優先順位を付けやすくなります。

  • 操作方法が分からない
  • 初期設定やデータ移行でつまずいている
  • 期待した機能がない
  • 動作や品質に問題がある
  • 料金や契約条件に不満がある
  • 導入後の成果が分からない

機能追加ですべての要望に応える必要はありません。対象顧客の多さ、更新への影響、代替手段の有無、開発コストなどを比較し、対応する要望と代替案を分けて説明します。

6. 更新プロセスを早めに始める

更新の意思確認や契約手続きを直前に始めると、社内稟議や予算確認が間に合わず、利用価値とは別の理由で更新できないことがあります。

更新時期から逆算して、次のように管理します。

  1. 契約終了日、更新条件、通知期限を契約情報から確認する
  2. 更新対象の顧客と担当者を一覧化する
  3. 利用状況や未解決の課題を確認する
  4. 顧客と成果や今後の利用計画を話し合う
  5. 料金、プラン、契約期間、必要な社内手続きを案内する
  6. 顧客側の決裁者や契約担当者を確認する
  7. 合意内容と手続きの完了を記録する

具体的な開始時期は、契約期間や顧客の決裁にかかる時間によって異なります。自社で必要な通知期限や契約条件を確認し、顧客の社内手続きに必要な期間を考慮して設定してください。

7. 解約理由を分類して改善につなげる

解約理由は「価格が高い」「使わなくなった」といった表面的な分類だけで終わらせず、背景まで確認します。

たとえば、次のように整理できます。

表面的な理由 確認する背景 改善の方向
価格が高い 価値に見合わないのか、予算が減ったのか 価値の提示、プラン設計、利用範囲の見直し
使わなくなった 導入が定着しなかったのか、業務自体がなくなったのか オンボーディング、利用支援、対象顧客の見直し
機能不足 必須機能なのか、代替方法があるのか 製品改善、連携、運用方法の案内
担当者変更 引き継ぎ先が決まっているか 複数担当者の利用、引き継ぎ支援

解約しなかった顧客にも、「なぜ更新したのか」「継続利用で不安な点は何か」を聞くと、更新を支えた要素を把握できます。解約顧客と更新顧客を同じ項目で比較すると、改善すべき兆候を見つけやすくなります。

更新率を改善する施策の優先順位を決める方法

最初から多くの施策を同時に始めず、更新率が低い原因に近い箇所から改善します。

  1. 過去の更新対象を顧客層、プラン、契約期間などで分ける
  2. 各グループの更新率と解約理由を比較する
  3. 導入直後の利用状況や問い合わせ履歴を確認する
  4. 最も影響が大きく、実行しやすい課題を1つ選ぶ
  5. 対象顧客、実施期間、担当者、評価指標を決める
  6. 施策の前後で更新率だけでなく利用状況や成果も比較する

たとえば、導入後に主要機能を使えていない顧客の更新率が低いなら、まずは初期設定支援や導入完了条件の見直しを優先します。反対に、利用状況は良いのに更新されない場合は、料金、契約条件、予算、決裁プロセスなどを確認します。

値引きだけに頼る改善が続きにくい理由

値引きは更新のきっかけになる場合がありますが、サービスの価値や利用上の課題が解決されないままだと、次回更新でも同じ問題が起きます。

また、値引きによって売上が減るため、契約件数の更新率だけでなく、売上継続率や顧客ごとの採算も確認する必要があります。値引きを行う場合は、適用期間、対象条件、通常料金に戻る時期を明確にし、単なる先送りになっていないかを評価します。

更新率の改善では、まず利用定着と成果の確認を行い、そのうえで顧客に合ったプランや契約条件を検討する順番が基本です。

まず確認するべき項目

最初に、直近の更新対象顧客を一覧にし、次の項目を確認してください。

  • 更新対象になった契約数と、実際に更新した契約数
  • 契約期間、料金プラン、顧客規模
  • 主要機能の利用状況
  • 導入時に設定した目的と達成状況
  • 問い合わせや未解決の問題
  • 担当者や決裁者の変更
  • 更新・解約の理由
  • 更新前に顧客へ連絡した時期

そのうえで、更新率の低い顧客グループと、更新率の高い顧客グループの違いを比較します。違いが確認できれば、オンボーディング、利用支援、価値の可視化、更新手続きのどこを改善すべきか判断しやすくなります。

SaaSの契約更新率を改善する出発点は、更新直前の営業活動ではなく、契約開始後から顧客の成果を支援することです。契約更新率の定義を統一し、顧客の利用状況と解約理由を分析したうえで、導入定着、価値の確認、リスク対応、更新手続きを順番に見直しましょう。