SaaSの利用率が低い顧客には、利用を一律に促すのではなく、利用率が低い理由を特定し、顧客の業務に合う形で導入方法を見直すことが重要です。まずはログデータと顧客へのヒアリングから、認知不足、操作の難しさ、業務との不一致、社内展開の停滞などを切り分けます。
原因に応じて、初期設定の支援、利用手順の簡略化、活用事例の共有、管理者への伴走支援などを行い、利用率だけでなく「継続利用」や「業務上の成果」まで確認しましょう。
SaaSの利用率が低い顧客に行う基本対策
基本対策は、現状を把握する、原因を分類する、顧客ごとに支援する、効果を測定するという順番で進めます。
- ログイン率や主要機能の利用状況を確認する
- 利用していない顧客を状況別に分類する
- 顧客へのヒアリングで利用されない理由を確認する
- 原因に合ったオンボーディングや活用支援を行う
- 利用状況と業務上の成果を継続的に確認する
単にメールを送るだけでは、機能の必要性を感じていない顧客や、社内で利用を広げられない顧客の課題は解決しにくい傾向があります。
利用率が低い主な原因を切り分ける
利用率の低さは、顧客の意欲だけが原因とは限りません。どの段階で利用が止まっているかを確認すると、対策を選びやすくなります。
| 状況 | 考えられる原因 | 主な対策 |
|---|---|---|
| 契約後にログインされない | 導入目的が共有されていない、初期設定が難しい | 導入目的の確認、初期設定の支援 |
| ログインするが機能を使わない | 操作方法が分からない、必要な機能を理解していない | 利用手順の案内、短時間の操作説明 |
| 一部の担当者しか使わない | 社内展開の担当者やルールが決まっていない | 社内向け資料、管理者支援、利用ルールの整理 |
| 一度使った後に利用が止まる | 継続して使う業務に組み込まれていない、効果を実感できない | 定期業務への組み込み、成果の確認 |
| 特定の機能だけ使われない | 機能が顧客の業務に合っていない、設定が不十分 | 利用目的の再確認、設定変更、代替方法の提案 |
利用データで確認する項目
まずは、顧客単位だけでなく、ユーザー単位や機能単位で利用状況を確認します。次の項目を組み合わせると、利用が止まっている箇所を見つけやすくなります。
- ログインしたユーザーの割合
- 一定期間内のログイン回数
- 主要機能を利用したユーザーの割合
- 初回ログインから主要な操作までの到達率
- 利用が継続している期間
- エラーや途中離脱が発生している箇所
ログイン率が高くても、顧客が成果につながる機能を使っていなければ、十分に活用されているとは限りません。利用率を測るときは、サービスの目的に合う「重要な行動」を定義することが大切です。
利用されない理由を顧客に確認する方法
利用ログだけでは、顧客がなぜ使わないのかまでは分かりません。短時間のヒアリングやアンケートで、導入前に期待していたことと、現在の業務との違いを確認します。
質問するときは「なぜ使っていないのですか」と責める形にせず、利用の流れに沿って聞くと本当の障壁を把握しやすくなります。
- 契約時に解決したかった業務上の課題は何か
- 現在、その課題はどのような方法で対応しているか
- サービスを使うとき、どの操作で迷うか
- 使うために必要なデータや権限がそろっているか
- 社内で利用方法を説明する担当者が決まっているか
- 使った結果、どのような状態になれば価値を感じるか
「使い方が分からない」という回答でも、実際には設定の複雑さ、権限不足、社内の承認手続き、業務フローとの不一致などが隠れている場合があります。回答をそのまま受け取るだけでなく、具体的な操作や社内手順まで確認します。
原因別に行うSaaSの利用率改善策
初期設定や導入手順が難しい場合
初期設定で止まっている顧客には、設定項目を減らし、最初に使う機能だけに絞って導入を進めます。
- 導入直後に行う作業をチェックリスト化する
- 設定例や入力例を用意する
- 顧客の業務に合わせた初期設定を支援する
- 最初から全機能を説明せず、優先順位を付ける
- 設定完了の条件を明確にする
多機能なSaaSほど、すべての機能を一度に案内すると利用開始の負担が増えます。最初は、顧客が最も重要だと考える業務を1つ選び、その業務を完了できる状態を目指します。
操作方法が分からない場合
操作方法が障壁になっている場合は、長いマニュアルを渡すだけでなく、実際の業務を想定した短い手順を用意します。
- 目的別に操作手順を分ける
- 画面のどこを押すかを画像や動画で示す
- よく使う操作を少ない手順で実行できるようにする
- 説明会では顧客自身に操作してもらう
- 操作後にどの状態になれば完了かを伝える
「機能の説明」ではなく、「顧客の業務を完了する方法」として案内することがポイントです。たとえば、レポート機能を紹介するだけでなく、月次報告に必要なレポートを作成する手順として説明します。
導入目的が社内で共有されていない場合
管理者だけが導入目的を理解している場合、現場のユーザーは既存の方法を使い続けることがあります。誰が、どの業務で、何のために使うのかを明確にします。
- 導入の背景と解決したい課題を1枚にまとめる
- 対象ユーザーと利用する業務を決める
- 利用開始日や社内周知の方法を決める
- 利用状況を確認する社内担当者を置く
- 既存の業務手順からSaaSへ切り替える箇所を明示する
利用を促す際は、単に「使ってください」と伝えるのではなく、利用によって何が改善されるのかを示します。ただし、業務上のメリットが明確でない場合は、周知を強める前に導入目的そのものを見直す必要があります。
社内展開が進まない場合
契約担当者や管理者が使っていても、現場ユーザーまで広がらない場合があります。この場合は、管理者への支援と現場ユーザー向けの支援を分けて行います。
- 管理者向けにユーザー追加や権限設定を案内する
- 現場向けに業務別の簡単な利用手順を用意する
- 社内説明会で使う資料を顧客に提供する
- 利用開始後の問い合わせ窓口を明確にする
- 部署ごとに導入する場合は、先行部署の事例を共有する
顧客側の担当者だけで全社展開することが難しい場合は、対象部署や利用者を絞って試し、うまくいった手順を広げる方法もあります。
使っても効果が分からない場合
利用しているのに継続しない場合は、利用そのものではなく、利用後の成果が見えにくい可能性があります。導入前に設定した目的と、利用後の変化を比較します。
- 作業時間が短くなったか
- 入力や確認の漏れが減ったか
- 情報共有が早くなったか
- 担当者ごとの対応状況を把握できるようになったか
- 以前は手作業だった業務を減らせたか
成果が確認できない場合は、顧客とともに評価指標を見直します。成果が出ていない原因がサービスの使い方にあるのか、対象業務との相性にあるのかを分けて考えることが重要です。
顧客を利用状況ごとに分けて支援する
すべての顧客に同じ支援を行うより、利用状況や導入段階に応じて支援内容を変える方が効率的です。
| 顧客の状態 | 優先する支援 |
|---|---|
| 契約後に利用が始まっていない | 導入目的の確認、初期設定、最初の操作支援 |
| 一部の機能だけ利用している | 現在の業務に関連する追加機能の提案 |
| 利用者が限定されている | 社内展開、権限設定、現場向け説明 |
| 利用が減少している | 利用停止のきっかけや業務変更の確認 |
| 利用も成果も安定している | 活用事例の共有、次の課題に合う提案 |
特に、契約後に一度も主要機能を使っていない顧客や、利用が急に減った顧客は、早めに状況を確認します。一方で、利用頻度が低くても、月1回の業務で十分に価値を得ている場合があります。
そのため、すべての顧客に高いログイン頻度を求めるのではなく、契約目的に合った利用状態を基準に判断します。
利用率を改善するために見るべき指標
利用率の改善では、ログイン数だけでなく、導入段階から成果までの指標を組み合わせます。
- 初回利用率:契約後に一度でも利用を開始した顧客やユーザーの割合
- 主要機能到達率:価値提供に必要な機能まで利用した割合
- 継続利用率:一定期間後も利用している顧客やユーザーの割合
- 利用者の広がり:契約先の対象ユーザーのうち利用している割合
- 業務成果:作業時間、処理件数、ミス、対応速度などの変化
- 問い合わせ内容:操作上の障壁や理解されていない機能
指標の定義は、集計期間や対象ユーザーをそろえて管理します。たとえば「利用率」と呼ぶ場合でも、ログインした顧客の割合なのか、主要機能を使ったユーザーの割合なのかで意味が変わります。
利用率を下げる可能性がある対応
利用を促す施策でも、顧客の負担を増やすと逆効果になることがあります。次のような対応は、目的と対象を確認してから実施します。
- 全顧客に同じ案内を何度も送る
- 利用目的を説明せずにログインだけを求める
- 一度にすべての機能を使うよう勧める
- 顧客の業務と関係のない機能を案内する
- 利用頻度だけで顧客の満足度や解約リスクを断定する
利用率が低いこと自体は、必ずしもサービスの失敗を意味しません。利用頻度が低くても、必要なタイミングで業務を完了できている場合があります。ログデータだけで判断せず、顧客が得たい成果と合わせて評価しましょう。
まず行うべきSaaS利用率改善の進め方
最初に行うことは、利用率の低い顧客を一括して催促することではなく、利用データから優先対象を決めることです。
- 過去一定期間のログイン状況と主要機能の利用状況を抽出する
- 未利用、初回利用後に停止、利用者が限定的などに分類する
- 各グループから顧客を選び、利用しない理由をヒアリングする
- 原因ごとに初期設定、操作説明、社内展開、業務設計の支援を行う
- 支援後に主要機能の利用と業務上の成果が変わったか確認する
- 効果があった支援を手順化し、同じ課題を持つ顧客へ展開する
改善の判断では、支援前後で同じ指標を比較し、利用率だけでなく継続利用や業務成果も確認します。「誰が、どの業務で、何を達成できるようになったか」まで追うと、顧客にとって意味のある対策になりやすいでしょう。







