SaaSの休眠顧客を活性化する施策とは?

SaaSの休眠顧客を活性化する施策とは?

SaaSの休眠顧客を活性化する施策とは、利用が止まった顧客を一括で追いかけるのではなく、休眠した理由と顧客の価値を見極め、再利用につながる案内や支援を行うことです。代表的な施策には、利用状況に応じたメール配信、オンボーディングのやり直し、活用事例の提示、個別サポート、プランや機能の見直しがあります。

ただし、契約中でも利用が少ない顧客と、解約済みの顧客ではアプローチが異なります。まず休眠の定義と対象を決め、反応や再利用率を測定しながら施策を改善することが重要です。

SaaSにおける休眠顧客とは

SaaSの休眠顧客とは、契約やアカウントは残っているものの、一定期間ログインや主要機能の利用がない顧客を指します。具体的な休眠期間はサービスの利用頻度によって異なるため、すべてのSaaSで同じ基準を使う必要はありません。

たとえば、毎日使う業務ツールなら「一定期間ログインがない」、月に数回使うサービスなら「数か月間、主要機能を利用していない」といった基準を設定します。ログインだけでなく、顧客が価値を得るための行動を基準にすることが大切です。

休眠顧客と解約顧客は分けて考える

契約中だが利用していない顧客と、すでに解約した顧客では、目的が異なります。

  • 契約中の休眠顧客:利用再開や解約防止を目指す
  • 解約直後の顧客:解約理由を把握し、再契約の可能性を探る
  • 長期間前に解約した顧客:現在の課題やサービスへの関心を改めて確認する

この記事で主に扱うのは、契約中または再契約の可能性がある休眠顧客への活性化施策です。解約済みの顧客に同じ案内を送っても、契約状況や解約理由によっては適切な対応にならない場合があります。

休眠顧客を活性化する主な施策

休眠顧客の活性化には、利用状況に合わせた情報提供と、再利用までの障害を取り除く支援が有効です。次の施策から、休眠理由や顧客の契約状況に合うものを選びます。

1. 利用状況に応じたメールを送る

休眠顧客へのメールは、全員に同じ文章を送るのではなく、最後に利用した機能や利用頻度に応じて内容を変えます。単に「戻ってきてください」と伝えるよりも、再利用のきっかけになる具体的な情報を示すことが重要です。

たとえば、次のように分けられます。

  • 初期設定後に利用が止まった顧客:設定手順や導入ガイドを案内する
  • 一部機能だけ利用していた顧客:関連する機能や活用方法を紹介する
  • 以前は継続利用していた顧客:新機能や業務上の利用例を案内する
  • 利用が急に減った顧客:困っている点や支援の必要性を確認する

メールには、再開してほしい理由、最初に行う操作、問い合わせ先などを入れます。案内する操作が多いと再開の負担になるため、最初の行動はできるだけ一つに絞ります。

2. オンボーディングをやり直す

導入直後に使い方が分からず休眠した顧客には、初回導入時と同じようにオンボーディングを提供します。オンボーディングとは、顧客がサービスを使い始め、目的を達成できる状態まで支援することです。

具体的には、次のような支援が考えられます。

  • 初期設定を確認するチェックリストを送る
  • 基本操作を説明する短い動画を案内する
  • 目的別の使い方を示すテンプレートを提供する
  • オンライン説明会や個別相談の機会を用意する
  • 顧客の最初の成功体験までの手順を整理する

特に、契約はしたものの社内展開が進んでいない顧客には、管理者向けの説明と実際に使う担当者向けの説明を分けると、導入の障害を見つけやすくなります。

3. 活用事例や具体的な使い方を提示する

顧客が「自社でどう使えばよいか分からない」ことが休眠理由なら、同じ業種や似た課題を持つ顧客の活用方法を紹介します。機能一覧を並べるだけでなく、導入前の課題、使った機能、利用後の業務の変化という順で示すと、自社での利用をイメージしやすくなります。

ただし、他社の成果や数値を紹介する場合は、対象や測定条件を明確にします。確認できない実績を一般化したり、「導入すれば同じ成果が出る」と断定したりしないように注意が必要です。

4. 新機能や改善内容を知らせる

過去に使いにくさや機能不足を感じて休眠した顧客には、その後に追加された機能や改善内容を伝えます。顧客が以前に利用していた機能と、改善された点を結びつけて案内すると、再利用する理由が伝わりやすくなります。

「多くの機能を追加しました」と伝えるだけでは、顧客にとってのメリットが分かりません。「以前に利用していた操作について、現在はこの手順で進められる」といった具体的な説明を加えます。

5. 個別のヒアリングや活用支援を行う

契約金額が大きい顧客や、利用状況から解約リスクが高い顧客には、メールだけでなく個別支援を行います。カスタマーサクセス担当者が、利用目的、社内体制、困っている点、導入後の変化を確認します。

ヒアリングでは、次のような質問が使えます。

  • 現在、サービスを使う予定の業務は何か
  • 利用が止まった時期と、そのときに起きたことは何か
  • 操作、社内調整、費用、必要性の変化のうち、どこに課題があるか
  • 再利用する場合、最初に達成したいことは何か
  • 追加で必要な説明や支援は何か

顧客の回答を記録し、営業、サポート、プロダクト改善の担当者と共有すると、同じ問題による休眠を減らしやすくなります。

6. プランや契約内容を見直す

機能や価格が顧客の現在の利用状況に合っていない場合は、プラン変更や契約内容の見直しを提案します。たとえば、利用人数が変わった、必要な機能が限定されている、社内で使う範囲が縮小したといったケースです。

ただし、値引きだけで休眠を解決しようとすると、利用目的がないまま契約を続けるだけになる可能性があります。価格の案内をする前に、顧客が何を実現したいのか、現在のプランがその目的に合うのかを確認します。

7. 再利用のきっかけになるコンテンツを届ける

顧客の業務上のタイミングに合わせて、チェックリスト、テンプレート、セミナー、操作ガイドなどを提供する方法もあります。サービスを使う目的とコンテンツの内容が一致している場合、単なる宣伝よりも再利用につながる可能性があります。

たとえば、毎月の業務で使うSaaSなら、月次作業の手順や確認項目を案内します。利用頻度が低いサービスなら、必要な時期に思い出してもらえるよう、利用タイミングに合わせた案内を検討します。

休眠顧客を分類して施策を変える方法

休眠顧客の活性化では、顧客を休眠期間、過去の利用状況、契約状況、休眠理由などで分類します。分類が細かすぎると運用できないため、最初は施策を変える必要があるグループに絞ります。

分類の例 考えられる状態 向いている施策
導入直後から利用が少ない 設定や使い方が分からない オンボーディング、初期設定支援、操作ガイド
一度は利用したが、その後止まった 継続利用の目的や習慣が定着していない 活用例、テンプレート、利用目的の再確認
継続利用後に急に減った 担当者変更、業務変更、不満などの可能性がある 個別ヒアリング、利用状況の確認、改善案の提示
特定の機能だけ使っている 必要な機能が限定されている 関連機能の案内、プランや契約内容の見直し
長期間利用がない 必要性の低下や解約検討の可能性がある 利用意向の確認、解約理由の把握、再提案

この分類はあくまで施策を選ぶための仮説です。実際の休眠理由は、顧客へのヒアリングや行動データによって確認します。ログインがないことだけで、顧客の不満や解約意向を断定しないようにします。

休眠顧客を活性化する実行手順

施策を始めるときは、対象者を決めてから、理由の仮説、案内内容、測定方法の順に設計します。次の手順で進めると、施策の効果を確認しやすくなります。

  1. 休眠の定義を決める:ログイン、主要機能の利用、データ登録など、サービスの価値と関係する行動を基準にします。
  2. 対象顧客を抽出する:休眠期間、契約プラン、契約期間、過去の利用頻度、顧客規模などで対象を分けます。
  3. 休眠理由の仮説を立てる:導入失敗、操作の難しさ、担当者変更、必要性の低下、機能不足などを整理します。
  4. 顧客ごとの施策を選ぶ:一斉メール、ガイド提供、個別支援、機能紹介などから、理由に合う方法を選びます。
  5. 再利用までの行動を一つ示す:ログイン、設定完了、データ登録、相談予約など、最初に取ってほしい行動を明確にします。
  6. 一定期間の反応を測る:メール開封だけでなく、ログイン後の主要機能利用や継続利用まで確認します。
  7. 反応のない顧客への対応を決める:追加案内の回数や頻度を定め、不要な連絡を続けないようにします。

活性化施策で確認する指標

休眠顧客の活性化では、メールの開封率だけで成功と判断せず、サービスの利用が戻ったかを確認します。目的に応じて、次の指標を組み合わせます。

  • 再ログイン率:案内後に再びログインした顧客の割合
  • 主要機能の再利用率:サービスの価値に直結する機能を使った顧客の割合
  • 継続利用率:再利用後も一定期間使い続けた顧客の割合
  • 休眠解消率:設定した休眠条件から外れた顧客の割合
  • 商談・相談化率:個別支援や相談につながった割合
  • 解約率の変化:施策を行った顧客群で解約がどう変化したか

計算例として、休眠顧客100社のうち20社が主要機能を再利用した場合、主要機能の再利用率は「20社 ÷ 100社 × 100」で20%です。ただし、対象期間や休眠の定義が違う数値同士を、そのまま比較しないようにします。

可能であれば、施策を送る顧客群と、すぐには送らない比較対象の顧客群を分けます。両者の利用再開率を比べることで、季節要因や自然な利用回復の影響を考慮しやすくなります。

休眠顧客へのアプローチで注意すること

一斉配信だけで終わらせない

休眠顧客は、導入段階や利用目的、契約金額がそれぞれ異なります。全員に同じメールを送るだけでは、必要な顧客に必要な支援が届かない可能性があります。

まずは顧客数の多いグループを大まかに分類し、反応を見ながら対象や内容を調整します。少数の重要顧客には、個別のヒアリングを組み合わせます。

値引きを最初の施策にしない

値引きは反応を得るきっかけになる場合がありますが、利用しない理由が解決しなければ、再び休眠する可能性があります。価格が原因だと確認できた場合に限り、契約内容の見直しと合わせて検討します。

利用データの扱いと連絡頻度に配慮する

利用状況を使って案内する場合は、サービスの利用規約やプライバシーに関する取り決め、適用される法令に沿ってデータを扱います。メール配信では、配信停止の方法や連絡先など、必要な表示・運用も確認します。

また、反応がない顧客に短い間隔で何度も連絡すると、サービスへの印象を損なうおそれがあります。事前に配信回数、間隔、停止条件を決めておくと、過剰な案内を防げます。

休眠顧客の声をプロダクト改善につなげる

休眠顧客への施策は、利用を戻すだけでなく、休眠が起きる原因を見つける機会にもなります。設定の難しさ、機能不足、社内展開の難しさなど、複数の顧客に共通する問題があれば、メールを増やすよりサービスや導入支援を改善する方が効果的な場合があります。

休眠顧客の活性化施策を選ぶ判断基準

どの施策を選ぶかは、休眠期間だけでなく、顧客が過去に得ていた価値と、再利用を妨げている要因で判断します。

  • 使い方が分からない顧客には、手順の簡略化や個別支援を行う
  • 利用目的が曖昧な顧客には、業務別の活用例や目標設定を提示する
  • 機能不足を感じている顧客には、改善内容や代替手段を説明する
  • 担当者や社内体制が変わった顧客には、再導入の支援を行う
  • 必要性が低下した顧客には、無理に引き止めず利用意向を確認する
  • 価格が合わない顧客には、利用範囲とプランの適合性を見直す

休眠顧客の活性化で最初に行うことは、休眠の基準を決め、対象顧客を「いつから」「どの機能を」「どの程度使っていないか」で整理することです。そのうえで休眠理由を仮説化し、メール、オンボーディング、個別支援、契約内容の見直しから適切な施策を選びます。

再ログインだけでなく、主要機能の再利用と継続利用まで確認すれば、施策が本当に顧客の活性化につながったかを判断しやすくなります。