SaaSのクラウド原価は、対象期間にサービス提供のために使ったクラウド費用を集計し、共通費用を合理的な基準で配賦して計算します。基本式は、クラウド原価率=クラウド原価÷売上高×100です。
ただし、クラウド料金をすべてそのまま原価にするのではなく、顧客へのサービス提供に直接必要な費用と、開発・営業などの費用を分けることが重要です。
SaaSのクラウド原価に含める費用
クラウド原価には、通常、顧客がSaaSを利用できる状態を維持するために発生する費用を含めます。代表的な費用は次のとおりです。
- 仮想サーバーやコンテナなどのコンピューティング費用
- データベース費用
- オブジェクトストレージやバックアップ費用
- CDNやデータ転送費用
- ロードバランサー、監視、ログ管理などの運用基盤費用
- サービス提供に直接必要な外部APIやミドルウェアの利用料
- 本番環境の障害対応や運用に関係する人件費
一方、次のような費用は、クラウド原価ではなく研究開発費、販売費、管理費などに分類することが一般的です。ただし、社内の会計方針によって扱いは異なります。
- 新機能の企画や開発にかかる費用
- 営業、マーケティング、広告の費用
- 経理、法務、総務などの管理部門の費用
- 将来のサービス開発に向けた調査費用
したがって、「クラウド事業に関係する費用」と「SaaSを提供するための原価」は同じではありません。まず、自社で原価に含める費用の範囲を決めてから計算します。
SaaSのクラウド原価を計算する基本式
月次のクラウド原価は、次の式で求められます。
クラウド原価 = 直接費用 + 共通費用の配賦額
クラウド原価率や粗利率は、次のように計算します。
- クラウド原価率 = クラウド原価 ÷ SaaS売上高 × 100
- 売上総利益 = SaaS売上高 - クラウド原価
- 売上総利益率 = 売上総利益 ÷ SaaS売上高 × 100
例えば、ある月のSaaS売上高が500万円、クラウド原価が125万円だった場合、計算は次のとおりです。
クラウド原価率:125万円 ÷ 500万円 × 100 = 25%
売上総利益:500万円 - 125万円 = 375万円
売上総利益率:375万円 ÷ 500万円 × 100 = 75%
これは計算例です。実際の原価率を判断するには、対象期間、売上の範囲、原価に含めた費用をそろえる必要があります。
クラウド原価を計算する5つの手順
1. 計算期間と対象サービスを決める
最初に、月次、四半期、年次のどの期間で計算するかを決めます。SaaSの費用管理では、利用量や請求額の変化を追いやすい月次計算が適しています。
複数のサービスを提供している場合は、全社合計だけでなく、サービスやプランごとに集計できるよう対象を分けます。売上高と原価の期間がずれると、原価率を正しく比較できません。
2. クラウド請求額をサービス別に集計する
クラウド事業者の請求データから、対象期間の費用を集計します。少なくとも、次の項目を分けて記録すると原因を分析しやすくなります。
| 分類 | 主な費用 | 確認すること |
|---|---|---|
| 計算資源 | 仮想サーバー、コンテナ、サーバーレス | 稼働時間、処理量、環境別の利用額 |
| データ保存 | データベース、ストレージ、バックアップ | 保存容量、バックアップ世代、増加量 |
| 通信 | データ転送、CDN、ロードバランサー | 転送量、通信先、プラン別の利用状況 |
| 運用基盤 | 監視、ログ、セキュリティ関連サービス | 本番環境に必要な費用か、開発用か |
請求額には、税金、割引、クレジット、前払い契約の按分などが含まれる場合があります。会計上の費用として何を採用するかを決め、毎月同じ基準で処理してください。
3. 直接費用と共通費用を分ける
顧客やサービスを直接特定できる費用は、できるだけ直接費用として計上します。例えば、顧客専用環境のサーバー費用や、特定サービス専用のデータベース費用などです。
一方、複数の顧客やサービスが共用する費用は、共通費用として扱います。全顧客で使う本番クラスタ、共通の監視基盤、共通ネットワークなどが該当します。
開発環境や検証環境の費用は、顧客への提供に直接使われているかで判断します。開発・テスト専用の環境をクラウド原価に含める場合は、その理由と計算基準を社内で統一します。
4. 共通費用を合理的な基準で配賦する
共通費用は、利用実態に近い基準でサービスや顧客へ配賦します。配賦とは、1つにまとめて請求された費用を、決めたルールに従って複数の対象へ割り当てることです。
代表的な配賦基準は次のとおりです。
| 配賦基準 | 向いている費用 | 注意点 |
|---|---|---|
| CPU使用量・処理時間 | 計算資源、コンテナ基盤 | 処理量だけでは待機時間を反映しにくい場合がある |
| 保存容量 | データベース、ストレージ、バックアップ | 容量と読み書き回数の両方に料金がかかる場合がある |
| データ転送量 | 通信、CDN | 通信先や時間帯で単価が異なる場合がある |
| アクティブユーザー数 | ユーザー数に比例しやすい共通基盤 | ユーザーごとの利用量に大きな差があると精度が下がる |
| 売上高比 | 利用量を取得できない少額の共通費用 | 実際の利用量と一致しない可能性がある |
例えば、共通データベース費用100万円を、サービスAの保存容量60%、サービスBの保存容量40%で配賦する場合、Aは60万円、Bは40万円です。保存容量以外の利用量も料金に影響する場合は、容量だけでなく読み書き回数なども加味します。
配賦基準に唯一の正解があるわけではありません。重要なのは、利用実態を説明でき、毎月同じルールで計算できることです。
5. 売上高と比較し、前月との差を確認する
クラウド原価を集計したら、同じ期間の売上高と比較して原価率を計算します。さらに、前月比や顧客数、アクティブユーザー数、利用量とも比較すると、原価が増えた原因を把握しやすくなります。
原価率だけでなく、次の指標も確認すると実務に役立ちます。
- 顧客1社あたりのクラウド原価
- アクティブユーザー1人あたりのクラウド原価
- 売上高1円あたりのクラウド原価
- プラン別のクラウド原価率
- 新規顧客の追加に伴う限界原価
例えば、顧客1社あたりの原価は、次の式で計算できます。
顧客1社あたりの原価 = 対象顧客に配賦したクラウド原価 ÷ 対象顧客数
全顧客を単純に割るのではなく、専用環境を使う顧客と共用環境を使う顧客を分けると、より実態に近づきます。
クラウドの割引や前払い契約はどう扱うか
予約型の割引、利用量に応じた割引、前払い契約などを利用している場合は、実際に支払った金額と、その月の利用に対応する費用を区別します。
例えば、1年分を前払いした契約を1か月の原価に全額計上すると、その月だけ原価が大きくなります。月次で採算を見る目的なら、契約期間や利用期間に応じて按分する方法が考えられます。
ただし、会計処理としての費用認識は、契約内容や社内の会計方針によって異なります。管理会計上の「利用実態に基づく原価」と、財務会計上の費用処理を同じにするかどうかも、あらかじめ決めておきます。
SaaSの原価計算で注意したいこと
クラウド請求額だけでは実際の原価にならない
クラウド請求額は重要な出発点ですが、運用担当者の人件費、障害対応、バックアップ管理、監視などを含めるかどうかで原価は変わります。クラウド料金だけを「サービス提供に必要な総原価」と表現しないように注意してください。
開発環境と本番環境を混ぜない
開発環境の費用を本番サービスの原価に含めると、サービスの提供コストを高く見積もることがあります。一方で、開発環境を含めた開発費用全体を管理したい場合もあります。
そのため、少なくとも本番、開発、検証、共有基盤のタグやアカウントを分け、目的ごとの費用を確認できる状態にします。
売上と原価の対象をそろえる
特定プランの売上だけを分母にして全サービスのクラウド原価を分子にすると、原価率が実態より高くなります。売上高と原価の対象サービス、期間、顧客範囲をそろえてください。
平均値だけで判断しない
全顧客の平均原価が低くても、一部の大容量利用者が利益を圧迫している場合があります。プラン別、顧客別、利用量別に確認し、原価が高くなる条件を特定します。
実務で使える集計項目
月次の管理表には、次の項目を用意すると原価の変化を追跡しやすくなります。
- 計算月
- サービス名・プラン名
- 顧客区分
- クラウドサービス名
- 本番・開発・検証などの環境区分
- 直接費用
- 共通費用
- 配賦基準
- 配賦額
- 売上高
- クラウド原価率
- 前月との差額と増減率
クラウド側のリソースに、サービス名、環境、顧客、部門などのタグを付けておくと、請求データとの照合がしやすくなります。タグを付けられない費用は、CPU使用量や保存容量など別の利用データを使って配賦します。
まとめ
SaaSのクラウド原価は、対象期間の直接費用と共通費用の配賦額を合計し、同じ期間の売上高と比較して計算します。
まず本番サービスに必要な費用の範囲を決め、クラウド請求額を環境・サービス別に分けてください。そのうえで、共通費用をCPU使用量、保存容量、データ転送量など利用実態に近い基準で配賦し、原価率と顧客・ユーザーあたりの原価を確認すると、料金設定やコスト削減の判断に使いやすくなります。







